世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月11日

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 米バード大学のイアン・ブルマ教授が、Project Syndicateのウェブサイトに6月6日付で掲載された論説で、トランプ大統領就任以来、米国を核とした東西の同盟体制にほつれが広がっているが、ロシア、中国が主導権を握った世界では現在の自由は享受できなくなるとして、拙速な同盟解体論を戒めています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/ojogabonitoo/DeDron)

 戦後、米国が欧州と東アジアに構築した秩序には最近、ほつれが生じてきていた。トランプ政権がパリ議定書離脱を決定したことで、ほつれは一層広がった。

 メルケル首相は、「欧州は米国のリーダーシップにもはや依存することはできない」と公言したが、これはドゴール将軍以来のことである。

 米国を核とした同盟体制「パックス・アメリカーナ」がこうして徐々に終わりを迎えているにしても、我々はもっと冷静でいるべきかもしれない。

 NATOは、「米国を欧州に呼び入れ、ロシアを締め出し、ドイツの再台頭を抑える」ことに目的があった。しかし、現在ではドイツの再台頭を恐れる必要はなく、ソ連崩壊後のロシアをそれほど遠ざける必要があるかについても議論がある。また、トランプが言うように、現在の体制下、欧州と日本は米国の軍事力に依存し過ぎている。

 今の同盟体制のジレンマは、米国がリーダーシップを過早に放棄すれば、米国より悪質な国がその空白に入り込んでくるおそれがある一方、米国主導の体制を続ければ、同盟国は自分の安全にもっと責任を持とうとはしないところにある。 

 帝国的な体制が崩壊すると、武力紛争が起こりやすい。トランプの時代には、この危険性を十分認識しておくべきである。

 米国の力が強かったからこそ、欧州ではファシズムや過激な国家主義が勢力を伸ばしにくかった。直近のフランスやオランダの選挙でも過激なポピュリズム政党が政権を取るのを防ぐことはできたが、ポピュリズムの力がいっそう強くなればトランプはこれを止めないだろう。日本でも米国が頼りにならず、対中恐怖心がパニックを呼べば、「反米的超国家主義」を抑えることはできにくくなろう。

 メルケルは東ドイツ出身なので、ロシアの長期(拡張)戦略を警戒しているが、そうでない者は多い。「ロシアや中国が欧州諸国、あるいは日本に侵攻する可能性はほとんどない。ロシア、中国に接近して経済的利益を得よう」と思っている者もいる。

 しかしそうする者は、自分の自由を失うだろう。米国はその政策や大統領を外国に批判されることを許容してきたが、中国が世界を支配するようになれば、事態は変わってくるだろう。中国を批判すれば反発を食い、特に経済面で報復されるだろう。ロシアや中国は侵攻して来ないとしても、自由を失った我々は「米帝国」を懐かしく思い出すことになるだろう。

出典:Ian Buruma,‘Life After Pax Americana’(Project Syndicate, June 6, 2017)
https://www.project-syndicate.org/commentary/life-after-american-hegemony-by-ian-buruma-2017-06

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