2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2017年7月7日

――それでは転換後のおすすめ映画はありますか?

藤:ネットフリックスの『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』や『オクジャ/okja』ですね。先日、この2作品の記者会見に行きましたが、『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』主演・製作のブラット・ピットとデヴィッド・ミショッド監督は、ネットフリックスでないとこの作品は製作出来なかった、あるいは低予算の映画になっていた、と明言していました。ちなみに、この映画の製作費は約6000万ドルと言われています。

 オバマ政権下のアフガニスタン駐留米軍トップだったスタンリー・マクリスタルが、当時のオバマ大統領やバイデン副大統領を批判した記事がローリングストーン誌に掲載され、後にマクリスタルは更迭されます。この一連の出来事について、同誌に書いたジャーナリストのマイケル・ヘイスティングスが本にまとめました。この映画はそれをもとにしています。ブラット・ピットは、マクリスタルを演じています。

 ちなみに、このマイケル・ヘイスティングスというジャーナリストは、CIA(米中央情報局)やNSA(米国家安全保障局)による個人情報の大量監視の問題についての批判的な記事も書いています。彼は、13年にロサンゼルスで交通事故で亡くなりました。彼の死については、さまざまな憶測が流れています。真偽の程は定かではないですが。

 彼の死の真相を抜きにしても、こうした映画に大規模な予算を投じて製作するスタジオは現在はなかなかないかもしれません。そういった意味では転換後の映画であると言えます。

――ところで、本のタイトルにもなっていますが、ゴールデングローブ賞授賞式の会場でメリル・ストリープは、名指しこそしなかったもののトランプを批判しました。他にもマット・デイモンなどは政治について積極的に発言しています。日本の俳優が政治的な発言をするとバッシングを受けかねません。ハリウッドの映画人たちがこうした発言をするのはなぜでしょうか?

藤:ヨーロッパやアメリカでは、映画人たちが「自分たちは言論人で、メディアの一角だ」という気概があるからだと思います。先日も、マーヴェル・コミックスの人気作品『Xメン』シリーズのウルヴァリンというキャラクターのスピンオフ映画『LOGAN/ローガン』について、「これはかなり社会性のある作品。これまでともかなり違う」と配給会社の方から聞いたのをきっかけに、来日記者会見に行きました。それまでは実は、アメコミのヒーローものだというぐらいの認識しかなかったのですが、映画を見ると、アメリカの国境付近でヒスパニックの子どもたちを助けるシーンがあったり、メキシコとの国境の壁がモチーフになっていました。ジェームズ・マンゴールド監督に記者会見で質問すると、アメリカ大統領選のさなかに撮影したため、「USA! USA!」と叫ぶ少年たちの様子を撮影当日につけ加えた、と説明したうえで、「私はいつも、周りで起きているすべてを作品に折り込む」「今日性や社会性は常に帯びるべきではないか」と答えてくれました。

――こうした政治的な発言を引き出そうとして、取材中に質問を止められることはないんですか?

藤:特にハリウッド映画人の場合、インタビュー時に広報担当者が同席することが多いですが、時に彼らに眉をひそめられることはあっても、実際に質問をさえぎられたことはありません。ヨーロッパに至っては、著名な俳優でも本国の広報担当者が同席することはないですね。いずれにせよ、仮にさえぎる人がいたとしても、本人はお構いなしというのが実際です。みなさん、ご自身の発言には誇りと責任をもっておられます。マット・デイモンは、13年と昨年の計2回インタビューをしましたが、13年の際には本人が進んで、かねて支持するオバマへの2期目の苦言を語り、大統領選を控えた昨年はトランプ批判を語りました。

 こちらとしては、PRの邪魔をしているつもりはまったくないんです。スタジオや配給会社にも、そういうアプローチのほうが観客層を広げることになってよいと考える人もいます。結局、映画のことだけを聞いて書いても、映画ファンにこそ響きますが、社会に結びつけ、作品に込められた政治的な話をしたほうが、これまで映画館に来なかった人たちにも響くかもしれない、ということがあります。

 先ほどのウルヴァリンにしても、そういう記事を読むことで、アメコミだから関心がないと思っていた人も劇場に足を運んでくれる可能性がある。映画宣伝のために、政治的な発言をしているわけではないけれど、結果としてそういった効果もありますね。


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