2017年8月17日(木)

三朝町

2017年7月19日

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胎内くぐりを経て投入堂に

 鳥取県・三朝町(みささちょう)と聞いて、国宝「投入堂(なげいれどう)」と三朝温泉が思い浮かぶ方は、かなりの旅通に違いない。町の中心を流れる三徳川(みとくがわ)の両岸には温泉旅館が並び、それらを包むように山々が連なる、なんとも穏やかな町だ。

 この三朝町の宝物が投入堂だ。投入堂の始まりは平安時代、さらに三徳山の開山は奈良時代にさかのぼる。修験道の開祖といわれる役小角が、3枚の蓮の花びらを「神仏のおわしますところに落ちよ」と投げたところ、そのうちの1枚が、ここ三徳山に落ちたのだという。

「株湯」近くに建つ道標。

 それだけではない。役小角は、その法力で山の麓でお堂を手に乗るほどに小さくし、洞窟の中に投げ入れたという伝説も伝わっている。

 投入堂は三徳山の中腹、標高520メートル辺りに建つ。途中、文殊堂、地蔵堂、鐘楼堂などを越え観音堂につくと、堂の後ろに導くように地面が踏み固められている。堂の裏側は真っ暗だ。そこを出て、ほっと一息ついて空を見上げると、突然、投入堂が視界に入る。修行に励み、胎内くぐりを経て、生まれ変わって現生に出る。投入堂参拝にはそんなストーリーがある。

 千年もの風雪に耐えた伝説に違わぬその姿を見ると、役小角の魔訶不思議な話も真実かもしれないと思えるほどだ。そのスケールの大きさと美しさに誰もが感動の声を上げる。

修験者になって六根清浄を極める

 しかし、投入堂に近づくのは容易とは言い難い。木の根をつかみ、岩にしがみついて登る。

 そもそも、入山時には「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」と記された輪袈裟を渡される。これを肩から下げ、修験者としての身なりを整える。六根とは、「眼・耳・鼻・舌・身・意(心)」を指し、これら六根から生じる執着にまみれた行いを浄化し、心を清めることを六根清浄という。この山では、自然と一体になり、苦しい修行を乗り越えることが求められるのだ。

 行者道を一歩一歩、手と足を前に運んでいると、頭の中は空になり、煩雑な仕事を思い出すことなど不可能と言っても過言ではない。ここでの時間は、まさに「日常に非ず」なのだ。

(右)三徳山三佛寺の「だんだん菩薩」。(左)三徳山への距離を示す道標。

六感治癒で体も癒す

 三徳山での再生のキーワードが六根清浄なら、山の麓の三朝温泉での再生のキーワードは「六感治癒(ろっかんちゆ)」だ。六感治癒とは、「観・聴・香・味・触・心」の六感を湯に浸かって癒すという考え方。古来より、自然界のいたるところに神仏が宿ると感じてきた日本人ならではの癒し方だ。

 三朝温泉といえばラドン泉で名高い。今もラドン含有量は世界屈指だという。三徳山参拝の前日に、この湯に浸かって心身を清め、参拝を無事すませたら、再びゆっくりと湯に浸かる。「極楽、極楽。お山のご褒美」と思わずにいられない。こうして3日を過ごすと「3日目の朝には病が癒える」という言い伝えがある。

(右)「神の湯」といわれる三朝神社の手水舎。(左)三朝橋から眺めた町。

 のんびりと町を散策できるのも、三朝温泉の魅力だ。町のあちこちでラドン泉を飲むことができる。三朝神社の手水舎、850年前に三朝温泉が発見された場所である「株湯」、足湯を楽しむ「薬師の湯」を回っての“温泉味比べ”もいい。河原に作られた露天風呂に浸かって開放感を満喫するのも面白い。苔むした道標やお地蔵さまを巡って、昔の三徳山詣りに思いを馳せるのも、心静かな時間の過ごし方だ。夜ともなれば、昭和レトロな商店をのぞいたり、ちょっと一杯楽しんだり。

 三徳山と三朝温泉は、国がクールジャパン戦略の一環として2015年にスタートさせた「日本遺産」第1号に認定されている。日本ならではの山岳信仰と、温泉発見から850年を経た今もその信仰と深くつながる三朝温泉への旅は、心と体の垢を落とし、清々しく再生してくれるだろう。