2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月18日

 カタール危機は世界経済に多大の影響を与え、また湾岸諸国の今後の協力に疑問符を投げかけるものです。更に米軍の中東司令部が置かれているカタールの動静は中東全体の安全保障にも影響を与えます。石油輸入の8割以上を中東に依存し、大量の天然ガスを同国に依存する日本にとっても重大事です。

 紛争の早期解決、鎮静化が必要です。クウェートが調停しているということですが、米国務省、国防省との連携の下に功を奏することを期待したいと思います。問題は調停者がすべて当事者になっていることです。トランプはツイッターで自分の手柄のように書いていますが、軽率な大統領の対中東外交だとのそしりをまぬがれません。米国が動けなければ英国ですが、英国はEU離脱問題でそれどころではありません。残念ながら世界は秩序を失っているようです。

 如何に妥協を図るかは簡単ではありません。また対立の沈静化が図られたとしても、しこりは今後長く残るでしょう。特に湾岸諸国の外交関係は多分に個人化されたものであり個人的感情が重要な要素です。更にラックマンが指摘するように、今回の紛争を通じてカタール・イラン関係が一層深まるかもしれません。また従来から政治、軍事関係が緊密化していたトルコは、在カタール駐留部隊(現在100人)の増強を決定しました。両国はエジプトの軍事クーデターに共に反対する等、主要な問題について同様の立場を取って来ました。今回の対立により湾岸政治は一層複雑化しました。

 今回の行動はサウジのサルマン皇太子(31歳)が主導したものといわれています。カタールに向けられた措置は極めて深刻なものです。サルマンの行動は行き過ぎたのでしょうか。長年の我慢がUAE等との連携の下に、トランプの理解を得て爆発したということでしょう。国王、皇太子など湾岸の新しい王制国家指導者の間の人間関係が絡んでいる可能性もあるのではないでしょうか(カタール首長も若い)。

 在カタール米空軍基地が軍事介入の抑止になっているとのラックマンの指摘は興味深いです。確かにそういう意味合いがあります。カタールにとってトルコ軍の駐留も同様の意味合いがあるでしょう。

 中東の構図は徐々に、しかし確実に変化しています。中東は長年アラブ対イスラエルという構図で仕切られ、米国がコントロールしてきました。アラブは一つの大国家になっても不思議ではない位一体でした。しかし冷戦が終わり、湾岸諸国などが裕福になり、夫々がナショナリズムに目覚め、国家利益に基づく国際関係を行う度合いが強くなっています。今回のような対立はかつて予想されもしなかったことです。中東でも国家のアイデンティティは益々強くなっているようです。

  
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