韓国の「読み方」

2017年7月14日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

保守派メディアは、現実的外交につながると期待

 翌日の保守系紙「東亜日報」社説は、韓国の主導的役割を強調してきた文大統領による「国際政治の場に韓国の居場所はなかった」という悲観論とも聞こえる告白であり、「小さくない認識の変化だ」と指摘した。同じく保守系の「朝鮮日報」社説は「国民の大部分はかなり前から持っていた認識だ」と皮肉を利かせながら、「冷静で正確な現実認識だ」と書いた。

 朝鮮日報はさらに、北朝鮮によるICBM発射後に断固たる姿勢を文大統領が見せたことや日米韓首脳会談で「日米韓の安保協力」に初めて合意したことを肯定的に評価した。一方で、文大統領が側近として仕えた盧武鉉元大統領が打ち出した「バランサー論(米中の間で仲介者になるという主張)」を「幻想に近い考え」と切り捨て、文大統領をけん制した。

 バランサー論は、韓国の自主外交を志向するという意味で「主導的役割論」に通じる。どちらも、民族主義的な色の濃い韓国の進歩派には受けのいい考え方なのだが、バランサー論はかつて米韓関係を極度に悪化させる一因になった。だから保守派には強い警戒感を持たれるのである。

 実際には、文在寅政権の外交安保ブレーンは大統領選中から、日米両国との良好な関係を維持する必要性を強調していた。盧政権の時に日米との関係を悪化させたことへの反省を語りつつ、対日関係については慰安婦問題で全てを止めた朴槿恵政権前半期を強く批判しながらである。

 だから、米国との懸案である終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの在韓米軍への配備問題では、文大統領は訪米中に配備を進める考えを明確に表明した。訪米前には、国内支持層からの突き上げや中国からの圧力を受けて揺れていると取られかねない姿勢を見せて心配されたが、なんとか踏みとどまった印象だ。

 日本との関係についても慰安婦合意の「再交渉」という公約は封印している。日本側から気になる点を指摘すればきりがないのだが、現在も「再交渉とは言わない」という線は守ろうとしているようだ。今後も、慰安婦問題で日本を刺激する動きは出てきそうだが、少なくとも一足飛びに「再交渉」と言い出すことはないだろう。

 それでも本当に現実路線を守っていけるのだろうかという疑念は残る。だからこそ、初の訪欧で文大統領が「限界」を認識したのならば、その意味は大きい。自らの限界を認識することは現実的な外交路線につながると期待できるからだ。

「力が足りない国は知恵を持たねば」

 朝鮮日報の社説には「力が足りない国は、情勢がどのように動いていくのか注視しなければならず、なによりも知恵を持たねばならない」と説く一節がある。それが歴史的現実なのだが、前回のコラムでも指摘した通り、その現実が「韓国の主導的役割」への渇望を生んだ背景でもある。

 ただ、外交的な影響力に限界があるというのは韓国に限った話ではない。北朝鮮の核問題では、日本の役割も極めて限定的である。冷徹な自己認識は日本にも求められているものだ。

  
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『文在寅とは何者か』(澤田克己、祥伝社)

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 文在寅政権の発足を受け、改めて韓国社会を読み解こうとする新著『文在寅とは何者か』を上梓しました。
 日本では無名に近かった文在寅氏とは、いったいどんな人物なのか。文在寅政権はどうなっていくのか、彼を大統領に押し上げた背景にある韓国社会の実像はどんなものなのかを読み解こうというものです。お手に取っていただければ幸いです。

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