中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年8月12日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 政界はひとときの「凪」のように見えるが、政府では2011年度予算策定に向けた準備が着々と進んでいる。毎年夏は、各省が概算要求を作成する季節だ。

 7月27日政府は2011年度予算の概算要求基準を決定した。そこでは、①国の一般会計予算のうち、国債費を除く歳出の大枠約71兆円(2010年度並み)堅持と新規国債発行額が44兆円を上回らないようにする、②国債費、地方交付税、社会保障関係費と2010年度に実施済みのマニフェスト政策を除いた歳出(「その他経費」)約24兆円の一律1割削減、③1兆円を相当程度超える「元気な日本復活特別枠」の設定、などとしている。

 厳しい財政状況の中にあっても、歳出を抑制しつつ特別枠でメリハリを付けようとする来年度予算の概算要求基準には政府の努力が見て取れる。しかし、ただでさえ硬直化が進んで裁量余地が乏しくなっている「その他経費」を、さらに一律1割削減することには無理がある。歳出制約がここまで厳しくなると、本来ならば教育や科学技術といった国家の土台を成す根幹分野に歳出項目を絞り込み、限られた予算を集中していくことが欠かせない。それを一律削減では、日本の経済や社会の基盤にも悪影響を与えていきかねない。

6年前に書いた「破綻シナリオ」の実現可能性

 それにつけても、ここまで財政状況が厳しくなると、将来の財政行き詰まりすら荒唐無稽とは言いにくくなってくる。つい最近、私が6年前に書いた本「日本経済のリスクシナリオ」を久々に読み直す機会があった。この本は、当時の日本の財政収支悪化を懸念して書いたものだが、今読み返してみても違和感がない。それどころか、この6年間で財政健全化はむしろ一段と悪化し、破綻にジリジリと近づいているようにすら見える。

 この本の中では、物語風に日本が財政破綻するに至る過程と、破綻したならば日本はどうなるかということを書き、そこに細かい解説を加えている。そして、遂に財政が破綻し、IMF管理下に入ってしまった日本の人々に対してのIMF高官の発言として、以下のように書いた。

 「全世界を見ても、日本のような大きな財政赤字を出している国は他にはない。それは国民の皆さんの公的負担が小さすぎることと、予算の大盤振る舞いが過ぎることに起因している。したがって、皆さんにはもっと負担をしていただき、自助努力をしていただかなければならない。厳しい言い方になるが、日本の皆さんの甘えが過ぎたことが、現在の事態を招いた。IMFは日本の経済を破綻から救うためにお手伝いはするが、主役はあくまでも国民の皆さんである。国に依存する甘え、国が破産しているのに生活水準を維持したいという甘え、自分がやらなくても誰かが経済と財政を再生してくれるとの甘え、をぜひ絶って、日本経済をかつてのように再生してもらいたい」

 もちろん、現在の日本の財政は破綻などしていない。むしろ、欧米諸国に対する信用リスクの高まりなどから日本国債が買われており、10年物国債の利回りは約7年ぶりの低金利水準となっている。為替市場でも、円は対ドルで84円台の円高水準まで買われているし、国の信用リスク度合いを示すソブリンCDSプレミアムも、南欧諸国などと比べてはるかに低位だ。

 しかし、日本の財政収支が主要国図抜けて最悪の水準にあるのは紛れもない事実だ。6月下旬のG20トロント・サミットでも、主要国では日本だけが3年後には財政赤字の対GDP比を半減させるとの財政健全化目標を共有できなかった経緯もある。しかも、多くの国民や政治家の危機意識が未だ高まっていないように見えるのも残念だ。

 この点に関しては、いくら財政赤字が大きいことはギリシャと似ていても、ヤミ経済のウエイトが大きくて脱税が横行し、労働人口に占める公務員の割合が際立って高いようなギリシャと比べれば日本の事情は異なる、との意見がある。確かに、近年の日本の財政赤字拡大の要因は高齢化進展に伴う社会保障費の増大や景気対策にある。だから、日本の方が、財政赤字は大きくても内容的にはまともと言えるかもしれない。

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