ある成年後見人の手記

2017年8月7日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 「とにかく早く手続きを進めてほしい」と頼み込んだ。当時の由利子のぐったりした様子を目にした身としては、万一の事態が起きた場合、つまり由利子が死去した時、後見人の身分がなければ、大変複雑な問題に巻き込まれると懸念したからだ。また、後見人になってこそ、私の立替払いは本人の財産から弁済されるのである。

 だが弁護士は、選任までの所要時間の見通しを言ってくれない。1カ月半がたっても何も進まない。4月1日には、こんなやり取りがあった。

 私「どの段階まで来ているんですか」

 皆元「不動産登記がないことの確認書類を求めています」

 私「早くしていただかないと立替払いの負担も大変です。交通費とか」

 皆元「交通費は出ませんよ」

 私「この支出は認められる、これは駄目という基準を示してください」

 皆元「はっきりした基準はないんです」

 皆元らが、由利子の血族や病院、施設関係者らへの聞き取り調査に動く気配がないのも、不思議だった。思い余って4月6日、ある革新政党に近いといわれる神戸の法律事務所に山江恵一弁護士(仮名)を訪ねた。

 ここで初めて、後見人に関するマニュアルをもらった。弁護士に対する懲戒制度についても説明を受けた。

 「先生、替わってもらえませんか」と要請したが、専門外のため「弁護士会で後見人専門の人を紹介してもらった方が良い」と勧められた。他人の仕事を引き継ぐのは嫌なのか。皆元たちで続けるしかない。

申立人の法的な保護が必要

 こうして私は09年2月に成年後見人への選任申立てを決意し、生まれて初めて司法の判断を仰ぐ立場となった。裁判所の門をくぐったことの無い読者も多いだろう。そんな人々こそ、「司法は、当事者である市民の声に耳を傾け審判を下す」との私が当初抱いていた素朴な期待を理解してくださると思う。だが事は安易ではなかった。

 私が、神戸家裁に成年後見人への選任を申し立てるに当たり、疑問を抱いたのは、雇った弁護士から準備書類作成のため、由利子が住んでいた市営住宅に行き、書類や書簡などの回収を頼まれた時だ。弁護士が依頼人に作業を求めるというのも考えてみれば変な話だが、それはともかく、何度も部屋に上がり込んで物色したが、これは家宅侵入や窃盗の容疑を抱かれかねない行為だと思い、怖かった。私はこの時点でまだ後見人にもなっておらず、立ち入り権限はあるのだろうか? 隣人が不審に思い110番通報して警官が来でもしたら、一悶着は避けられなかっただろう。

 市民が司法判断を求めようとすると、危なっかしい思いを余儀なくさせられるような現状は、早急に改めねばならない。後見人選任の申立人を保護する制度を設けるべきだ。
(つづく・『まさか消費者金融に世話になるとは【ある成年後見人の手記(2)】』)

 
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