ある成年後見人の手記

2017年8月8日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 審判書の主文は、1.「本人」由利子について後見を開始、2.成年後見人として申立人(筆者)を選任、3.手続費用のうち申立手数料800円、後見登記手数料4000円、送達・送付費3150円、鑑定費約8万円は由利子の負担。

 これが全内容、一般の裁判での判決理由に相当する文言はない。成年後見開始の審判において、申立人自身は異議申し立てできない。この薄い文章の読み方を広末弁護士が教えてくれた。「弁護士料は、伯母さんでなく、松尾さんの負担ということです」。

 私が払ってきた弁護士料は通算24万3600円。どの弁護士も、後見人に選任されれば戻ってくる前提で話をしていた。それは私の聞き間違いだったのだろうか。いずれにせよ戻ってこない支出となった。

 その結果、09年9月時点での立替払いを80万円余りと先述したが、立替分として戻ってきたのは約49万円にとどまった。

 後日、家裁で書記官に尋ねた。「この申し立ては、私の利益になるものではない。すべて伯母由利子のためなのですよ」。答えは「弁護士なしで後見人になる人もいます」。

 二の句が継げなかった。書記官の想定にあるのは、親子や兄弟、夫婦などの間での後見人選任であり、家族会議で円満に同意を得るケースだろう。

 姻族三親等の私は、血族の誰一人面識もなかった。そもそも血族が何人いるかさえもわからなかった。弁護士に頼り相手方を探すことから始めなければならない。それには戸籍謄本の取得が必要だが、弁護士や司法書士など抜きでは不可能だ。

 一般の裁判と異なり、審判官は申立人と対面しない。こんな環境を訴える場は、私にはなかった。

見捨てる血族たち

 由利子の血族との面会を一度だけセットしたことがある。だが、その再会は荒涼たるもので、血縁とは何かを考えさせられた。

 広末弁護士が由利子の血族の割り出しを進め、姉妹2人と甥や姪ら計14人がいることが判明。この中で、神戸に住む実妹の田宮悦子(当時79歳、仮名)が私と連絡を取りたがっているという。

 考えた末に電話した。「どんな経緯があったか知らないし、知るつもりもないが、一度見舞っていただけませんか」。

 曲折を経た末に09年9月7日午後、悦子と息子の次郎(当時47歳、仮名)が施設を訪ね、私も広末弁護士と同道することになった。

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