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2017年7月25日

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真田康弘 (さなだ・やすひろ)

早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員/客員講師

早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員・研究院客員講師(法政大学大原社会問題研究所客員研究員兼任)。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータを経て、2014年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。
 

 水産庁曰く、「水産庁としては、ISCステークホルダー会合においては、漁業関係者がそれぞれの事情を発信し、活発な意見交換がなされることが重要と考え、全漁連(全国漁業協同組合連合会)を含めた関係者に積極的に発言するよう伝えてきたところ。全漁連に対してもこのことを伝えたところ、『ステークホルダー会合で、組合員である沿岸漁業者の発言の際の参考にするため、これまでの沿岸漁業者の主張をまとめてほしい』との要請があり、水産庁管理課資源管理推進室で沿岸漁業者の主張をまとめ、全漁連に提供したもの」だという。

 しかし、筆者がマグロ漁業者に直接問い合わせたところ、「資源が回復している実感はない。(30キロ未満の)未成魚に関しては、巻き網の取り残しや規制によって制限されたことによる取り残しが回遊してきただけ」(九州一本釣り漁業者)、「北海道は今年史上最低。日本海側の北海道の漁師はほぼ同じことを言っている」(北海道一本釣り漁業者)、「資源は数年前よりは多少良くなっているように感じるが、好転したとは思っていない」(本州定置網漁業者)など、「台本」とは異なる発言が多く聞かれた。

 「台本」に書かれている内容は、とても沿岸漁業者の主張をまとめたものであるようには思えない。「あの台本に書かれていることが、日本の漁業者の総意であるわけがない」と漁業者は怒りを露わにする。

 水産庁がわざわざ「やらせ発言」のマニュアルを作成したのは、昨年12月にフィジーで開催された国際会議・WCPFCの年次会議が少なからず影響していると考えられる。現行の太平洋クロマグロの規制措置は初期資源量比2・6%まで激減した資源を7%程度まで増加させるという極めて手ぬるいものとなっている(WCPFCではカツオについては初期資源量比50%を資源回復目標に設定している)。

写真を拡大 水産庁が作成した「やらせ発言」のマニュアル

 年次会議ではこの程度の規制しか受け入れようとしない日本に対し、加盟各国からの激しい非難が集中、少なくとも初期資源量比20%まで資源を回復させるとの目標を設定するよう検討せよ、との異例の指示が出された。

 各国からの批判の十字砲火を受ける中、水産庁を中心とした日本側は「資源は近年増えている」「日本には多数の小規模沿岸漁業者がおり、彼らの生活を踏まえるならば、これ以上の規制強化は困難だ」とあくまで現行の措置が十分なものであると頑なに言い張り続けた。

 一方で、カツオ、メバチマグロ、キハダマグロなどの魚種については、これを下回れば禁漁など極めて厳しい措置が導入されると想定される資源最低ラインを、WCPFCでは初期資源量比20%に設定している。2・6%で「資源が増えた」と主張するのは説得力に著しく欠ける。

 各国代表がいる前で、最大漁獲国の日本の漁業者が口を揃えて「資源は科学的知見が示す以上に増えている」「我々にも生活があるので、これ以上の削減はできない」と言えば、交渉を有利に進めることができる、そう水産庁は踏んだのではないだろうか。

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