大人の週末NAVI

2010年8月18日

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ピーテル・ブリューゲル「外洋へ出帆する4本マストの武装帆船」
帆船を描いた版画が多いのも、今展の特徴。当時の高度な船舶技術を精確な描写で伝え、民衆の関心に応えている
1561年以降 エングレーヴィング ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

――寓意のモチーフとして、足の生えた魚や不気味でありながらユーモラスな猿の怪物など、ユニークな怪物のモチーフがよく描かれています。こうした着想はどんなところから受けてのものでしょうか。

 当時、ブリューゲルより前に活躍したヒエロニムス・ボス(1450~1516)という画家が描いていた怪物のモチーフが、リバイバル的に人気を博していました。そうしたボスの仕事の影響があったのでしょう。

 また、そもそも宗教画とは、聖者だけを描くものではなく、怪物や悪魔といった主題がよく出てきます。人間の罪深い部分を怪物で表現するというのは、中世以来の伝統的な手法でした。ですが、ブリューゲルの場合は、それを生真面目に踏襲するだけではなく、ユーモアを交えて描いているところが特徴的です。まるでマンガのような雰囲気もありますね。

 主題の選択は、発行主であったヒエロニムス・コックが決めていたのだと思います。クライアントからオーダーを受注するのはコックでしたから、当時人気であった話題にも敏感だったはずです。コックは、ボス風の作品の人気ぶりや、当時の民衆が何を求めていたのかをよく知っていた。こうした主題を意識的に選んだのは彼ではないかと思います。

――日本人の“ブリューゲル観”をかえるような展覧会になりそうです。

《ブリューゲルの肖像》(部分)
(『ネーデルラントの著名画家の肖像画集』(1572年刊))より
エングレーヴィング
ベルギー王立図書館所蔵 ©KBR

 これまで、日本人にとってブリューゲルといえば、農民の生活や民俗信仰といった、ほのぼのした絵を描く画家という受け止められ方だったかもしれません。

 でも、彼には、同時代のひとびとを観察しながら温かい目で描いている絵もあるけれど、そうした目線からは離れて、異次元的な深い精神世界を描いている絵の一群があります。こうした作品は、実はベルギー周辺の画家には大変多い。今回見に来たお客さんのなかには、ひとりの画家が、こうした異なる雰囲気の絵を同時期に描いていることに、とても驚かれている方もいらっしゃいました。今回の展覧会で、ブリューゲルの、知られざる一面をお伝えできたらうれしいです。

―― 展覧会を楽しむポイントを教えてください。

 ブリューゲルの版画展は、これまでに2度、日本で行われていますが、今回はモチーフのユニークさに着目した展覧会であることが特徴のひとつです。会場の造作も工夫して、モチーフを映しだす3Dパネルを飾ってみたり、モビールを飾ったりしました。

 モチーフの面白さを見ていただくだけでも純粋に楽しんでいただけると思いますし、そのひとつひとつが伝えていることが、現代の人々にとっても意義深いものですから、意味を考えながら見てもらいたいですね。画面いっぱいに描き込まれたモチーフのなかから、自分のお気に入りを見つけて帰られる方も多いんですよ。

 ブリューゲル自身が、「人間とは何か」ということを深く考えていた画家でもあり、人間のさまざまな面を肯定的に捉えて描き出しました。そうした、ブリューゲルが人間を描く目線に触れてもらえれば、生きるエネルギーを感じることができるんじゃないかと思っています。

――ありがとうございました。

 ありがとうございました。

 
 
 
 

ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界 
〈開催日〉開催中~8月29日(日)
〈会場〉Bunkamura ザ・ミュージアム 東京都渋谷区道玄坂2-24-1 
〈問〉03-3477-9111(代表)
Bunkamura ザ・ミュージアム:
http://www.bunkamura.co.jp/museum/index.html
展覧会公式サイト:http://bruegel.jp/

本展は、以下に巡回します。
・2010年9月4日(土)~10月17日(日) 新潟市美術館
・2010年10月22日(金)~11月23日(火・祝) 美術館「えき」KYOTO


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