ある成年後見人の手記

2017年8月9日

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松尾康憲 (まつお・やすのり)

ジャーナリスト

1953年生まれ。76年共同通信社入社。87年から2004年まで北京特派員、上海支局長、ハノイ支局長を歴任。現在は放送報道局委員。著書に『現代ベトナム入門 ドイモイが国を変えた』(日中出版)、共訳書に『中国の禁書』(新潮選書)、『性愛の中国史』(徳間書店) 

 神戸家裁の配布資料によれば、「被後見人の生活に支障をきたすことのないよう、被後見人の住居を処分するときは、家裁の許可を得なければならない」として、処分対象に、売却、取り壊し、賃貸、抵当権の設定を列挙している。

 後見人に選任されるまでの8カ月間、交通・通信費、見舞い経費、弁護士料を私に負担させる一方で、このような無駄な支出が放流される。法と社会常識は、なぜこうも乖離するのだろうか。

煩瑣な帳簿づけに推奨ソフト

 成年後見人に選任された私は、神戸家裁から宿題を課せられた。由利子の資産目録、これまでの収支月別決算と2010年の予算を遅くても2カ月以内に作成・報告せよという。後見人になるには8カ月待たされ、今度はせかされる。

 まず金庫とパソコン用家計簿ソフトを購入した。私個人の家計や仕事と後見事務を分けて整理したかったからである。家裁、区役所、由利子の入所した施設、金融機関、年金関連そして日誌などなど……書類が山積みなのだ。

 電気店で約3000円の家計簿ソフトを買う。1万円台の企業会計用だと、青色申告など複雑なものが入っていて使えないと思ったからだ。重宝した。

 決算予算を作成したのは、09年12月24日。回収した預貯金など収入から入院費、市営住宅の撤収費に加え、私が立て替えてきた毎月の施設費などを差し引いた3351万円が新年繰越という決算となった。

 10年の予算作成に当たり、何が適正な費目で金額なのか見当もつかず、苦闘していたら、ソフトの加減乗除が突然むちゃくちゃになってしまった。想像だが、当初は切手や爪切りといった代金何十何円からせいぜい十万円単位の計算だったのに、預貯金回収が進むにつれ千万円の「けた」が混在するに至りソフトがダウンしたのではなかろうか。私の神経も、同様に参っているように感じられた。

 「最も単純」が売り文句のソフトに買い替え、手打ちで数字を入れ直した。これが『誰でも出来る家計簿3』(アイアールティー)で、最新バージョンは16年7月発売の『誰でも出来る家計簿5』のようだ。使いやすくて出納の記録をこのように正確に披露できるのは、このソフトのお陰だ。宣伝の意図からではなく、成年後見を担う読者の利便のため、あえて商品名を記しておく。 

 10年の正月明け、神戸家裁の書記官より電話があり「いや、よく出来た決算予算で……」。合格かと安堵。お褒めの言葉はうれしいが、毎年末に、この作業を繰り返すのかと考えるとゾッとした。私自身が病んだり認知症になってきたりしたら、とても担えない。それでも、後見人になる前よりは経済的にも精神的にもずっと楽になった。
(つづく・法律家任せでええんか?後見制度【ある成年後見人の手記(4)】)
まさか消費者金融に世話になるとは【ある成年後見人の手記(2)】】

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