メディアから読むロシア

2017年7月24日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所特別研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

重点を海軍から陸軍へシフト

 振り返ってみると、軍事負担を嫌う財務省と軍備近代化を要求する国防省というパターンは、これまでにも繰り返されてきたものである。

 現行のGPV-2020についても、当初は国防省側が36兆ルーブルを要求したのに対して財務省は13兆ルーブルを主張し、最終的にプーチン大統領の裁定で19兆6000億ルーブルに落ち着いたという経緯がある。当時のロシアも金融危機のあおりを受けて財政難にあったため、状況は現在とよく似ていた。

 ただ、GPV-2025がGPV-2020と大きく異なるのは、重点の置き方だ。

 GPV-2020が採択された2010年時点では、米露関係は現在よりもはるかに安定的であると見られていた。特に欧州での軍事的緊張度は現在と比べ物にならないほど低く、ロシア軍がNATOと直接対峙するような事態はあまり蓋然性の高いものとは考えられていなかった。当時、ロシア軍では大規模な軍改革が進められていたが、この過程では陸軍の作戦単位が師団(約1万人)から旅団(3500人)へと小型化され、国家間の大戦争よりもチェチェン戦争やグルジア戦争のような小規模紛争に機動的に対処できる体制が重視されるようになった。

 そこでGPV-2020で最重点項目とされたのは、海軍の再建であった。欧州での大戦争が考え難くなった以上、ロシアの世界的プレゼンスや核抑止力を担う海軍に重点が置かれたのである。報じられるところでは、GPV-2025では全体の4分の1に相当するおよそ4兆7000億ルーブルが海軍向けとされ、これに空軍(4兆5000億ルーブル)や航空宇宙防衛部隊(3兆5000億ルーブル。重要政経拠点の防衛や軍事衛星の運用などを担当する)などが続く。一方、陸軍向け予算は5番目(約2兆6000億ルーブル)に過ぎなかった。

 ところがGPV-2025では、これが逆転した。ロシア政府は詳しい内訳を公表していないが、報道によると、GPV-2025の最重点項目は陸軍と空挺部隊(ソ連崩壊後、空挺部隊は陸軍から分離して「独立兵科」という扱いになった)となり、総額4兆2000億ルーブルが割り当てられる。一方、海軍向け予算は2兆6000億ルーブルと大幅な減少となる見込みだ。

 その背景にあるのが、米露関係の悪化と欧州における軍事的緊張の高まりである。これを受けてロシアはこの数年、欧州正面における陸軍の増強を図っており、師団や戦車軍といった重編成も復活するようになってきた。さらにロシアは無人砲塔を備えたT-14戦車など新型地上兵器を登場させており、GPV-2025ではこれらが大量調達されることとなろう。

 一方、予算を減らされた海軍のほうも、新型空母や原子力駆逐艦など期待の新鋭大型艦艇の建造を諦めたわけではない。ただ、これらをGPV-2025の枠内で建造できるかどうかははっきりせず、今後は軍内での予算獲得合戦が激化する可能性もある。

関連記事

新着記事

»もっと見る