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2017年7月24日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

財団法人未来工学研究所特別研究員

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

軍需産業は生き残れるか

 もちろん、この条件下でも一定の装備調達は続いていくだろう。だが、従来に比べて選択と集中が進むであろうことは想像に難くない。

 ロシア政府はこれまで軍需産業に仕事を確保してやるためにかなり非効率な装備調達(たとえば違うメーカーが生産する同じような装備を並行調達するなど)を行ってきたが、今後は合理化のために切り捨てられる企業が出てくる可能性がある。たとえばヘリコプターなどはこれまで各メーカーや工場に仕事がまわるよう満遍なく調達を行っていたが、GPV-2025では特定の最新鋭機種以外は調達を行わないとの方針であるという。

 そこでロシア政府が最近、持ち出してきたのが、軍需産業の民需転換だ。昨年12月、プーチン大統領が行った恒例の議会向け教書演説において、軍需産業の民生品生産を増加させると発言したのはその好例である。

 だが、これまで安定した国家発注に安住していた軍需産業各社にとっては、競争の厳しい民生品市場への転換は簡単ではない。実際、ソ連末期には軍需産業の民需転換(コンヴェルシア)が叫ばれたが、多くの企業は競争力のある民生品を生産することができず、ほとんど失敗に終わっている。

 6月末、プーチン大統領と面会した軍需産業グループ「ロステフ」のチェメゾフ総裁の発言は、このような危機感を強く示すものと言えるだろう。この会談でチェメゾフ総裁は、GPVで予定された政府発注を大幅に減らされてはメーカーが生き残れないと主張。民需転換をするにもまずは元手が必要であるとして、政府発注額を維持するように求めた。

 政府発注の減額を補う方法としては、輸出もある。実際、政府発注をほとんど得られなかった1990年代には、多くのメーカーが武器輸出収入を頼りに生き延びてきた。

 ただ、現在のロシアの武器輸出額は年間150億ドルほど。これは米国についで世界第2位の規模ではあるものの、全ての軍需産業を養うには十分ではない。かといって、輸出を大幅に増やすのも簡単ではない。特にかつての大口顧客であった中国は、もはや一部の製品を除いてロシアに頼らず自主生産が可能となっており、武器輸出市場においてロシアのライバルにさえなりつつある。

 原油価格が当面は回復しないであろうことを考えれば、国防予算は引き締めざるを得ない。かといって来年の大統領選を考えれば、大票田である軍や軍需産業の機嫌を極端に損ねることは難しいだろう。

 年内に最終決定されるというGPV-2025だが、軍にとっても、軍需産業にとっても、そしてプーチン大統領自身にとっても、多難な船出となりそうだ。

  
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