2024年4月20日(土)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年8月21日

 で、言語を勉強し始めてみると、言葉の形にもいろいろと規則性があるということを知った。それがとても意外で刺激的でした。我々は日本語を使いこなしているけど、発音や文法のことにはなかなか気づきません。そんなところにも規則性が働いていることがすごく意外でおもしろかった。それでだんだん意味よりも形のほうに興味を持つようになったわけです。

 文字を研究する際、普通、言語研究者は、言語がどのように文字に現れるかというアプローチをとります。私の場合は、文字の方から言語を見るアプローチをとっているところが特色かなと思っています。

 文字では位置の情報(書式)も意味を持っています。空間的な位置は文字しかもてない。朗読するとき難しいのは、表とかグラフの読み上げです。音声言語には対応するものがないからです。音声言語とは別の世界が文字の世界には広がっています。文字のほうからみると、言語も別の姿が見えてくるんです。

 そのおもしろさに明確に気づいたのは、ここ15年くらいでしょうか。書字方向を研究し始めてから、自分の中でもいろいろ道が開けてきた。書字方向なんて趣味的な問題だと思っていましたが、やってみると新しい世界を見せてくれました。

●とすると、15年前に扁額の話をした同僚は運命の人ですね。

——「おれがおまえの恩人だ」って言われますよ。まあ、そういう人は何人もいるんですけどね。いちおう新ジャンルを開拓したことになるのかな、とも思っていますが、まあ、未開拓のジャンルなんてまだいくらでもあるんですよ。誰かがやるべきなのにきちんと行われていない研究はまだまだたくさんあります。

 ただ、書字方向については、もう他にやることはないんじゃないかなと人に思われるくらいやってみたい。私は下町の生まれで、職人の息子だからか、一人で全部やっちゃいたいんですよ。大げさにいえば、私が通った後には草も生えないようにしたい。書字方向については私が全部やりつくしたい、という気持ちはある。

 といいつつ、もちろんまだわからないことだらけです。結局、全部を調べ尽くすことはできない分野ですから。

●ご自分の研究スタイルにはどんな特徴があると思いますか。

——私の場合、広く浅く、関心が広がってしまう傾向があるので、自分の仕事くらいは、狭く深くやろうと。非常に間口を狭くして、でもその中では網羅的にやる、というのが自分の中で決めているやり方です。

 例えば文法といってもいろいろな問題がありますが、語形変化の問題だけとりあげる。そのかわり、すべての時代、すべての方言に通じることをやる、というふうに。普通は、方言を研究するといったら方言だけ、それもどこどこの方言だけ、となっていく。歴史だったら、○○時代だけ、とかね。私の場合は、古いのもやるし、方言調査もする。それが特色かなと思っています。


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