2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月4日

 ロンドンのキングス・カレッジのハーシュ・パント教授が、7月5日付のウォールストリート・ジャーナル紙で、中印がヒマラヤ国境で対決し緊張が高まっていることを紹介しています。論説の要旨は、次の通りです。

(iStock.com/Gewoldi/ballykdy/bennymarty/GlobalP/ma_rish)

 インドと中国はヒマラヤで睨みあっている。両国の陸軍部隊がインド、中国、ブータンの3か国が接するところで6月16日以来、作戦行動を行っている。

 人民解放軍がドクラム高原のブータン軍陣地に向けて道路を建設しようとしてこの対決が始まった。ブータンが抗議し、2日後インドが中国に建設中止を求めた。衝突が起き、中国側はインド軍の一時的な掩蔽濠を壊したようである。

 過去と異なり、中国は自らをインドの侵略の犠牲者と描き出し、その抗議の調子は攻撃的である。インドに1962年の戦争の教訓を学べと言っている。インド側は「今のインドは1962年のインドにあらず」と反論している。

 インドは中国の道路建設は深刻な安全保障上の意味を持つ「現状の変更」であると述べ、ブータンも「原状回復」を求めている。中国が小さなブータンをいじめている。ブータンはインドの支援を受け、中国と言う巨人に対抗している。ブータンはインドと特殊な関係にある。2007年の友好条約で、両国は「国益に関する問題で緊密に」協力し、「お互いに自分の領土を、国の安全保障や利益に有害な活動に使わせない」と約束している。

 インドにとり、同盟国のために立ち上がることは重要である。中国にとっては、南アジアでのインドの優位性に挑戦し、地域の戦略環境を形作る能力を周辺国に示す意味がある。さらにドクラムの道路はシリグリ回廊に近く、インドの北東部をいざという時に切り離すという大きな軍事上の目的に役立つ。

 中国の行動は、モディ首相のインドの利益主張に中国がイライラしていることを示す。インドは「一帯一路」首脳会議をボイコットした数少ない主要国であり、この構想を覇権主義の現れと見なしてきた。モディ首相とトランプ大統領の良き関係も中国にとっては面白くない。

 ブータンは中国に挑戦するようなことは何もしていない。唯一の問題はインドとの緊密な関係を持っていることだけである。モディ政府は、周辺の同じ考えを持つ諸国と協力し、中国に対抗しようとしている。これは、中国が既存の国際秩序に挑戦している現在、インドが自国の利益を守る唯一の道であろう。

 米国はアジア太平洋における力学が急速に変わっていることに反応しなければならない。トランプ政権は中国との間で取引の関係を作るとして、意図せずして中国が隣国に圧力をかける行動に青信号を出してしまったかもしれない。米国は中国の台頭が多くの人が予測したよりもずっと早くアジアの形を変えていることを認識する必要がある。現在の傾向が続けば、中印の緊張した対決が「新常態」になるだろう。

出 典:Harsh V. Pant ‘Rising tensions on the Himalayan Frontier’ (Wall Street Journal, July 5, 2017)
https://www.wsj.com/articles/rising-tensions-on-the-himalayan-frontier-1499272511?mg=prod/accounts-wsj


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