WEDGE REPORT

2017年8月6日

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林 智裕 (はやし・ともひろ)

ライター

1979年生まれ。いわき市出身福島市育ち。 シノドス主宰『福島関連デマを撲滅する!』プロジェクト立ち上げメンバー。 『福島第一原発廃炉図鑑(開沼博・編(太田出版)』にてデマ検証コラム執筆。SYNODOS (シノドス) 不定期共同連載中。他、福島TRIP、ダイヤモンドオンライン、第三文明などへも記事を執筆。

 しかし、一般社会では多くの方が「漁業者が処理水放出に反対している」というニュースを、単純に「トリチウム(三重水素)を放出すれば海や魚が放射性物質により汚染される。だから漁業者が反対している」のように、平面的かつ科学的には誤った理解を今もしているのではないでしょうか。そのようなニュースの誤読や誤解を沢山の方がしたままでの風評被害再燃を懸念する漁業者もいるのです。

 先ほども触れたような福島関連の震災後のデマや報道被害には6年半になろうとする現在に至ってもそのほとんどに総括や訂正も無く、正しい情報も伝わりにくいままです。これでは、多くの方が時間も機会も限られている中で、それでも能動的に情報を取りに行き、しかも一定以上の知識を持った方以外が正しく現状認識を共有するのは難しいと思います。

 社会でそうした状況が続いている以上、漁業者には処理水放出のメリットは無く、デメリットを覆せる見込みもありません。少なくとも漁連が組織としては反対せざるを得ない立場となるのも当然でしょう。

 それでも、漁連は現在まで「原発建屋に入る前の水」の地下バイパスとサブドレンでの放出には協力してきました。ただし、その合意の際にも「一度原発建屋に入ったトリチウム水の放出は受け入れない」という漁連側からの伝達を受けた上で成立した経緯があります。そこに更なる譲歩を求めるのは容易ではありません。

 しかもこの合意の時でさえも、環境団体や反原発団体からの抗議が東電のみならず一般の漁業者にまで数多く向けられたと聞きます。漁業者が歩み寄った結果として受けてきた理不尽な言い掛かりなどから、社会が彼らを充分に守れなかった前例が、すでにあるのです。

 各種団体や個人からの抗議活動の矛先が国や東電のみならず一般の福島県民や被害者に向かうことは珍しくなく、「フクシマの農家は人殺し」のような言説も震災後には沢山ぶつけられました。

 同様の例としてたとえば中高校生たちが普段から自分たちが利用している通学路の清掃活動をしようとしただけで1000件以上の誹謗中傷が殺到し、当日は生徒たちにつきまとっての嫌がらせが発生したといった報道もありました。

 その頃から社会は充分に学び、変わったでしょうか?

 仮に今、漁業者側が自らすすんで科学的な判断に基づいての処理水の放出を容認した場合を想定してみましょう。一体どのような報道がされ、どんな声と視線が漁業者へと向けられるかは、残念ながら誰にでも簡単に予想が付くと思われます。

 こうした経緯や前提があるにも関わらず、当初川村会長が「(東電として、海への流出の)判断はもうしている」と、漁業者を無視し合意を突然一方的に破棄したかのような報道がされ、大きく問題視された訳です。

 漁業者は魚を捕ることが仕事です。ましてや、事故のせいで様々な被害を受けている、本来であれば「守られるべき」被害者です。

 その漁業者に「漁業者が反対しているから放出ができない」と責任転嫁までしたところで、問題は全く解決しません。社会はまず、漁業者が置かれた立場を理解しなければならないのではないでしょうか。

 漁業に限らず農畜産業ももちろん、先ほどの甲状腺がんに関してなど、福島については、あらゆる方面で科学的な「安全」が「安心」へと充分に繋げられていません。それを主導するべき役割のバトンは漁業者などの当事者ではなく、もう何年も前から政治家や報道、流通や消費者など、社会側の手元にあるのです。より多くの方が正しい事実を知り、情報を更新し、共有を広げていかなければ問題の解決にはつながりません。

⇒(2)に続く


  
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