WEDGE REPORT

2017年8月6日

»著者プロフィール
閉じる

林 智裕 (はやし・ともひろ)

ライター

1979年生まれ。いわき市出身福島市育ち。 シノドス主宰『福島関連デマを撲滅する!』プロジェクト立ち上げメンバー。 『福島第一原発廃炉図鑑(開沼博・編(太田出版)』にてデマ検証コラム執筆。SYNODOS (シノドス) 不定期共同連載中。他、福島TRIP、ダイヤモンドオンライン、第三文明などへも記事を執筆。

 そのような状況の中で、先ほども例を出した「報道ステーション」を抱えるテレビ朝日では今年の8月6日に放送する特別番組で「ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図」と、再び「フクシマ」を称したタイトルを使い、甲状腺ガン、乳がん、死産流産、子どもの障がいが増えるという「地獄絵」が福島の未来につながるかのように印象付ける番組をまたしても用意しました。

 事前にホームページに掲載された番組宣伝によると、「かつて米軍の核実験場となった南太平洋の島の島民が、除染が完了したとの米軍の言葉を信じて帰還したところ、次々と健康被害が生じた」という趣旨の内容が紹介されており、そこに「フクシマの未来予想図」などとサブタイトルを付けたことで、あたかも「日本でも政府を信じて故郷に帰還したら健康被害が起こる」という誤った印象を広めかねない番組を全国に放送しようとしました。

 ここまで読まれた方は簡単にお気づきになられるでしょうが、ここで再び使われたカタカナ表記の「フクシマ」もまた、「現実の福島とはかけ離れた、当事者不在の外から与えられたネガティブな物語」として使われたことが容易に見て取れる実例です。震災後に中央メディアでしばしば使われてきたカタカナ表記の「フクシマ」は、いつもこうした文脈と共に使われてきたのです。

 予告時点で多数の批判が寄せられた結果、番組HPからはその後何の告知も無く「フクシマの未来予想図」などの文言が突然消されていました。

 報道によると「誤解を生じかねないと考え削除することにした」とのコメントのみが出されており、謝罪や何故このようなサブタイトルを付けたかなどの説明は、テレビ朝日側からは一切ありませんでした。この件は福島の地元紙福島民友新聞でも社説で批判的に言及されています。
https://this.kiji.is/265318385616650246?c=51548125355900932
http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20170803-193215.php

 すでに書いたように、福島では世界での一般的な生活の平均を超えるような大量被ばくをした人は誰もいません。震災後に何度も繰り返されてきたこの手の仄めかし報道による印象操作には「量の概念」も無く、こうした事実へと真摯に向き合う姿勢がいつも欠けているのです。

 これがたとえば宗教ならば、論理を超えた絶対解のなかで全ての判断がなされることもあるでしょう。しかし、放射性物質は断じて神ではありません。あくまでも科学や現実からの知見で論理的に判断されるべきです。

 原発事故が起こった=大量に被曝したに違いない、という思い込みのまま現実の調査結果や復興の実績を無視したり、放射性物質や「フクシマ」をまるで「タタリ神」であるかのように神話・宗教化させ、忌み嫌い、ただ恐れるだけで6年以上現実からは目を背けたままでは、科学的な態度とは言えないのではないでしょうか。

時計の針を止めたままにするのは、もうやめよう

 福島での原発事故よりも遙かに以前から放射性物質や放射線の影響について判っていることは多く、少なくとも現在の福島では避難区域外で普通に生活したり出荷された食品を食べ続けることへの「安全」は、もう随分前から充分に示されています。何も判らずにただ恐れ、忌み嫌うだけの「神話の時代」は本来、とっくに終わっているのです。

 しかし今までお話しましたような日本の状況下では、「安全」を「安心」へと変えていくことは被害の当事者たちだけの努力では非常に難しいと言えます。

 特に原発はもともとが極めて政治問題化しやすい存在であったために、その事故を政治的に利用しようとした人たちが、被災地へのデマや差別を振りまいて事実の共有を妨げてきました。それでも、本来ノイジーマイノリティである彼らの悪意を上回る社会からの圧倒的な善意や支援によって福島の復興が次第に進み、彼らの手段が次第に通用しなくなってきました。

 そうした中で、今回お話した「トリチウム」と「甲状腺がん」の二つの問題は、彼らにとって、いわば最後の砦になっています。必死でそれにしがみつき、これからも恐怖を煽るメディアや講演会などで、デマやそれに限りなく近い仄めかしを繰り返してくることでしょう。

 被災地はこれまで、自分たちが出来ることについては充分過ぎるほどの努力を重ねてきました。ですから未解決の問題のほとんどが、処理水問題でもお話したような、すでにバトンが現地ではなく社会の手に渡っているものばかりです。

 どうかこれを解決していくために、社会が時計の針をきちんと現実に合わせていくために、出来るだけ多くの方が妨害や煽りに負けずに正しい事実や情報の更新を続け、託されたバトンを手にとって問題解決のために共に関心を寄せて頂ければ幸いです。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る