世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月10日

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 社説は、日本とEUとの間のEPA大枠合意は、TPPを離脱し、TTIP交渉を中断させ、保護貿易主義の道を進むトランプ政権へのメッセージが含まれている、と述べ、米国が貿易におけるリーダーシップを放棄すれば他の国々がルールを設定し、その中で繁栄し、米国は取り残される危険があると警告しています。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米国の経済界のスポークスマンの役目を果たしているメディアであり、この社説の反応は、米国経済界の反応と考えてよいです。

 今回の日EU間のEPA大枠合意は、経済的メリットが大きいことは言うまでもありません。総人口5億人強、世界のGDPの22%、世界貿易の37%を占める日本とEUによる、巨大自由貿易圏が誕生するのです。合意によりEUの対日輸出は34%、日本の対EU輸出は29%増えると予測されています。

 しかし、経済的メリットと並んで、あるいはそれ以上に重要なのは、その戦略的意義です。合意は米国がトランプ政権の下で保護主義に大きく舵を切っている中で、日本とEUが自由貿易と国際協調の担い手になるとの強い政治的意思を世界に示したものと考えられます。日本とEUとのEPAの交渉が始まった2013年には、そのような意義は考えられなかったのですが、大枠合意のタイミングが、トランプ政権の保護主義的政策が鮮明になった時となったので、その戦略的意義が強く意識されることになりました。

 安倍総理はEUのトゥスク大統領、ユンケル欧州委員長との会談後の共同記者会見で、「日本とEUは自由貿易の旗手として手を携え、世界の平和と繁栄に貢献していく」と述べました。同発言は、合意の戦略的意義を強調したものです。

 社説の言うように、トランプ政権が輸入鉄鋼に報復関税を課し、相手国がそれに報復し、あるいはWTOに提訴することになるかどうか、より広く、米国が保護主義の道を歩み続ける結果、世界から取り残されることになるかどうかは時間が経たなければ分かりません。その過程でトランプ政権が、保護主義が米国経済にとってマイナスであることを自覚するようになれば、米国にとってのみならず世界全体にとって好ましいことです。

  
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