オトナの教養 週末の一冊

2017年8月20日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

飼い主が先に逝く時の備え

山本葉子さん(東京キャットガーディアン提供)

 『猫を助ける仕事』の中には、30代の女性が末期がんにかかり、飼い猫3匹を東京キャットガーディアンが引き取る例がでてくる。人も猫もいつ死ぬかわからないのが現実である。山本さんは月に一度最終日曜に「猫と人の終活勉強会」を開いている。どんな内容なのだろうか?

 「ぎりぎりになって、猫をひきとって欲しいという連絡が多数はいってきます。まだ御自身が意思を伝えられる方はご自分で、そうでなければ親族、近隣の人、ケアマネージャー、弁護士などです。孤独死でなくても、友人や親がいたとしても、誰も飼い猫をひきとれないということがあるわけですから、ともかく前もって用意をしておいてほしいということです」

 セミナーでは自身が提供しているサービスだけではなく、その他の選択も説明するという。たとえば、老犬・老猫ホーム。これは金額が嵩む。いくつか調べてみると、初年度70万円、その後毎年45万円、あるいは安くとも修身一括で120万円などの支払いが必要である。

 「預かった猫が10年、15年と生きれば、えさ代、医療費などで数100万円かかります。もし、株式会社だったら、一日も早く動物が死んでくれれば、利益が出るわけです。だから危ない側面をもっています。途中で支払えなくなったらどうなるのかという疑問もあります。実際そういうサービスは一時たくさん出ましたが、継続できない例が多いのです」

 さらにペット信託というのもある。信託銀行、外資保険会社、行政書士などが組んで、飼い主が死んだ時に信託金額が保全され、新たな飼い主にペットを渡す。行政書士や弁護士が信託監督人となり、管理会社に移された財産を管理し、新飼い主によるペットの飼育状況を監督するというものだ。けれどもこれも(少なくとも筆者には)決して適切な金額とはいえない。契約書作成の手数料、遺言書作成費用、合同会社設立費用などで、初期費用が50万円前後。それに加え、月々最低でも1万円の支払いとなる。

 山本さんたちも『ねこのゆめ』と名付けた成猫の引取りと再譲渡事業をはじめた。月3800円、満期6年、総額27万3600円である。これも決して安価とはいえないが、他のシステムと比べると金額の違いは明らかである。終活勉強会の参加者は、「ねこのゆめ」の内容を具体的に聞くために来るものも多いという。

ペットが先に死んだとき

 もっともありそうなのが、飼い猫が先に死ぬ場合だろう。いわゆるペットロスに苦しむ人の相談も多くよせられるはずだ。

 「終活勉強会に来る方もいます。でも、凄く苦しんでいる方は、猫がいるここには来られないんです。なぜならば逝ってしまった飼い猫を思い出してしまうから。だから今後猫がいない場所で対応できたらと考えています。それもカウンセラーが対応すると高額になるので、グループで話し合うような形式で」

 がんの患者会、アルコール依存者の会、介護者の会など、同じ悩みをかかえる人々のグループトークの場は多々ある。話すこと聞くことで悩みが軽減されるのだ。

 「実際に池袋でペットロスミーティングがボランティアベースで行われていました。まだやっているかもしれません」

 それは1999年から行われているペットラヴァーズ・ミーティング(http://www.ddtune.com/plm/)のことだ。3カ月に一度豊島区内で実施され、基本無料だが、寄付として500円募っている。また、営利目的のペットロスカウンセラーの参加は禁止し、カルト教団などの甘い言葉に誘われないように注意を払っている。

 「わたしたちも、喫茶店を借りて、ボランティアベースで行おうと思っています。ペットロスに苦しむ人はしゃべりたい、わかってもらいたいという承認欲求があるわけですから、同じ悲しみを共有することで、心が軽くなるかもしれません。それにこずるいかもしれませんが、猫好きだった方が復活してくれると、保護団体にとってもありがたい存在になるんです」

 なるほど、山本さんはある意味転んでもただでは起きぬタフなビジネスマンなのである。もともと若いときから音楽イベントの会社を起業し運営してきた経験がある。だからこそ、現れては消えるこの種の保護団体の中で9年間も継続しているのだろう。

 「NPO法人ですが、会社組織のように運営しています。人が困っていること、そこにはビジネスの種があるともいえます。もちろん猫の保護、猫の殺処分をなくすことが第一の目的です」

 東京キャットガーディアン(http://www.tokyocatguardian.org/index.html)のホームページを覗いてみると、実に多くのメニューがある。小規模の会社などは顔負けかもしれない。中にはNPOなのに企業と同じだと反感を持つ方もいるかもしれないが、ゴーイングコンサ―ンできるのは、強いリーダーがいて、組織が盤石で、利益もある団体である。問題は、利益を初期に設定した社会問題解決のための目的に使っているかどうかだろう。

 さて、この夏、猫好きや猫の悩みを抱えている方は、気が向いたら、大塚に足を向けて見るのも一興だ。

  
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