海野素央の Love Trumps Hate

2017年8月21日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

バノンの失言

 バージニア州での白人至上主義者と反対派の衝突事件後、ホワイトハウス内の白人至上主義者とユダヤ系の対立が先鋭化する可能性が出てきたのです。バノン氏、セバスチャン・ゴーカ大統領補佐官及びスティーブン・ミラー大統領補佐官を含めた極右思想に染まった白人至上主義グループと、トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問並びにゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長のユダヤ系グループとの確執激化です。トランプ大統領はそれを回避するため、ホワイトハウスの白人至上主義者の代表的存在であるバノン氏の解任を決断したのです。同氏は、白人至上主義者と同大統領のパイプ役とも言われていた人物です。

 確かにバノン氏の言動には多々問題点がありました。リベラル派の雑誌「アメリカン・プロスペクト」とのインタビュー記事もその一つです。同誌に自らアプローチをしたバノン氏は、記事の中で北朝鮮の核・ミサイル開発問題に触れ、「軍事的解決はない」と断言したのです。この発言は、トランプ大統領の例の「北朝鮮は米国に対して脅迫を止めなければ、世界がこれまでに見たこともないような炎と激怒に直面するだろう」というメッセージと相反するものです。しかも、その効果を弱めてしまいます。

 北朝鮮問題に対する軍事攻撃を全面否定するバノン氏のこの発言は、トランプ政権の本音を金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に送ってしまった点で致命的であるかもしれません。米メディアは、政権内でレックス・ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官が「いい警察官と悪い警察官」の役割分担を行い、北朝鮮に対して「ソフトとハード」ないし「同情と脅迫」の混合したメッセージを発信していると分析しています。仮にそうであるならば、バノン氏の発言は両長官の役割分担の戦略の効果を下げ、北朝鮮に対して予測可能な状態にしてしまったのです。

 それに加えて、ホワイトハウスが情報漏洩に神経質になっている時に、国家安全保障問題の担当でないバノン氏がメディアにリークしたとも解釈ができます。この点においても、同氏の発言はかなり問題があります。

 対中国強硬派のバノン氏には、リベラル派のメディアを利用してホワイトハウスのクシュナー氏及びコーン氏等の穏健派に圧力をかける狙いがあったのでしょう。ただ、北朝鮮問題に関してあたかも自分が米軍最高司令官のような発言をして、トランプ大統領の逆鱗に触れたことは容易に想像できます。

継続するバノン対穏健派

 バノン氏は解任されると、早速会長を務めていた極右サイト「ブライトバート・ニュース」に戻りました。「トランプのパトロンの正体」で紹介しましたが、同氏はヘッジファンドで財をなしたロバート・マーサー氏と娘のレベッカ氏と関係を密にしています。マーサー一族はブライトバート・ニュースに1000万ドル(約10億9000万円)、トランプ陣営には1350万ドル(約14億7000万円)の資金提供を行っています。当然ですが、トランプ大統領はマーサー一族との関係を切りたくないでしょう。

 そこで、トランプ大統領はマーサー一族からの支持を維持するために政策の取引を行う可能性が高いです。例えば、すべての政策を穏健化路線に切り替えるのではなく、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定離脱」は反グローバリズムのシンボルとして残します。

 バノン氏には、行政国家の解体、反移民政策の遂行及び保護主義の実現等のやり残した仕事があります。ホワイトハウスを出てアウトサイダーになっても、穏健派路線に舵を切るホワイトハウスの幹部にとって、同氏が政策遂行の上で障害になることは変わりません。トランプ大統領は、同氏の敵意と憎悪をホワイトハウスの穏健派ではなく、「フェイク(偽)ニュース」に向かわせるために何らかの策を講じるでしょう。

  
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