オトナの教養 週末の一冊

2017年8月25日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

“行動する科学者”の足跡を忠実にたどった著者

 いうまでもなく本書の圧巻は、緻密な観測機器を携えての、胸躍る冒険旅行である。若きフンボルトは、ベネズエラ奥地の川を遡上し、アンデス山脈を越え、先住民たちに会い、火山の噴火口をのぞきこむ。

 晩年のロシア旅行は当初、皇帝のために鉱物資源を探査するはずだったが、役目を果たすと旅程を反故にし、中国やモンゴルとの国境へと足を伸ばす。アルタイ山脈を登ったとき、彼は59歳だった。

 <随行した人びとは、五十九歳の男が「まったく疲れも見せずに」何時間も歩くことができ、つねに黒っぽいフロックコート、白いネクタイ、丸い帽子を身につけていることに驚いた。彼は慎重に歩いたが、それは決然とした確かな歩みだった。>

 読者は、美しい挿画や地図に助けられ、フンボルトの冒険に同行する。著者のみずみずしい筆致にいざなわれ、フンボルトとともに歩き、観察し、測量し、比較し、考察する。

 まさに、フンボルトは“行動する科学者”であったのだ!

 そう実感できるのは、著者が世界各地で彼の足跡を忠実にたどったからだろう。ベルリンではフンボルトのメモの入った箱を開け、ベネズエラの熱帯雨林でホエザルの声を聞き、フンボルトが独自の自然観にいたったエクアドルのチンボラソ山(標高約6300メートル)に登った。

 <一歩踏みしめるたびに、フンボルトに対する畏敬の念は深まる一方だった。彼はそのとき片方の足に怪我をしていたし(もちろん私のように快適で丈夫な登山靴を履いていたわけではなかった)、機器を携え、ときおりそれを取り出して計測までしたのだ。> 

 著者同様、1ページ読むごとに、“忘れられた科学の巨人”フンボルトへの畏敬の念が深まった。フンボルトの自然観の今日的意味をあますところなく伝える労作である。

  
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