2024年4月25日(木)

サムライ弁護士の一刀両断

2017年8月24日

金融取引には金融商品取引法の厳しいルールが適用される

 それでは「自分が発行するVAについて、価格を吊り上げて売却する」という行為には、どういう問題があるのでしょうか。このような取引行為には、何らかの法規制が及ぶのでしょうか。

 この問題は、VAの取引に金融商品取引法の適用があるかどうかによって取扱いが大きく異なります。

 VAと比較される上場株式の取引の場合には金融商品取引法が厳格なルールを定めています。株式を新たに発行したり、取引所内外で売買したり、あるいは取引を取り次いだりする場合には、いずれも金融商品取引法の定めるルールに従う必要があります。

 例えば、上場会社が新株発行のために投資家を募集する場合、金額により有価証券通知書や有価証券届出書を提出して募集条件や会社の経営状況などの情報を開示しなければなりません(金融商品取引法5条)。また、株式発行後も有価証券報告書を提出し、継続的な情報開示をすることが必要です(24条1項)。

 また、証券会社のように、上場株式の発行を取り扱ったり、株取引の仲介や取次ぎなどの業務を行う場合には許認可(第一種金融商品取引業の登録)が必要です(29条)。

 そして登録を受けた「金融商品取引業者等」やその役職員は、業務を行うにあたって金融商品取引法が定める厳しいルールを守らなければなりません。例えば、証券会社が投資家を勧誘するにあたって「必ず利益がでる」などと断定的な説明をしたり、投資判断を誤らせるようなことを告げたりすること(断定的判断等の提供)は禁止されています(38条など)。

 さらに、上場株式の場合、投資家を含む全ての取引関係者に対して、不正行為を禁止するルールが定められています(157条以下)。

 不正行為の代表的なものとして、風説の流布等の禁止(158条)、相場操縦行為の禁止(159条)、インサイダー取引の禁止(166条)などが含まれており、これらに違反した場合には、刑事罰が科される場合もあります。

上場株式の場合には金融商品取引法違反となる可能性も

 上場株式の場合、会社が新株の発行前に値段を吊り上げるために、架空のM&Aや新製品発売などの噂を市場に流すような行為は、金融商品取引法上の「風説の流布」にあたり、禁止されています。

 価格を吊り上げる目的で、ことさらに「いま購入すると良いことがある。得をする。」などと宣伝してまわることは、上場株式の場合には「風説の流布」にあたる可能性もありそうです。

 あるいは、証券会社などの金融商品取引業者等が「かならず得をする」などの発言をして投資家を勧誘した場合、断定的判断等の提供の禁止に抵触する可能性があります。

 また、上場株式の場合、会社の関係者が、大規模な新株発行や自己株式の処分が予定されていることを知り、それらの公表前にその銘柄の取引を行うことは、同様に金融商品取引法が禁止するインサイダー取引にあたります。

金融商品取引法が適用されない「VA」

 もっとも、金融商品取引法が定める風説の流布の禁止やインサイダー取引の禁止は、あくまで「有価証券」の取引について適用されるルールです。

 また、断定的判断の提供の禁止も、「金融商品取引業者等」やその役職員に適用されるルールです。

 VAが「有価証券」にあたらないのであれば、VAの取引に、金融商品取引法の「風説の流布の禁止」や「インサイダー取引の禁止」は適用されません。

 何が「有価証券」に含まれるかは金融商品取引法2条1項,2項で定義されており、株式のほか、国債や社債などの債券、投資信託や信託の受益権、ファンドの持分権などが含まれます。

 しかし、先ほど説明した通り、VAは「株式」ではありません。また、VAのように「個人が発行し、運用等による利益配当もない権利」について、それにぴったりとあてはまるものは有価証券の定義の中には見当たりません。現時点ではVAを「有価証券」にあたると解釈するのは難しいといえます。

 そして、VAを発行するユーザーや、VALUの運営主体は、登録を受けた金融商品取引業者等ではありません。有価証券でないVAを取り扱うことについて、金融商品取引業の登録を受けることも必要ないと考えられます。

 そうすると、VAの取引において、「風説の流布」や「インサイダー取引」、あるいは「断定的判断等の提供」にあてはまる行為がなされたとしても、有価証券の取引の場面でなく、登録を受けた金融商品取引業者等が行ったものでもない以上、金融商品取引法の規制は及ばないということになりそうです。


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