個人美術館ものがたり

2010年9月10日

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赤瀬川原平 (あかせがわ・げんぺい)

画家、作家

1937年、神奈川県生まれ。60年代にネオ・ダダイズムなど前衛芸術運動に参加。80年「尾辻克彦」名の『父が消えた』で芥川賞を受賞。『散歩の学校』『昭和の玉手箱』『千利休 無言の前衛』など著書多数。

 話の中で、絵の好みや内容よりも「目玉」としての吸引力のことが多く出てくるのは、やはり事業経営者ならではのことだろう。本業の林業は時間がかかるし金もかかる。それを支えるのにサイドビジネスとして建材業を始めたら、そちらが大きくなった。本当はそれぞれが独立した状態がベストなのだけど、美術館だけはまだ本体からの寄付を頼りにしている。まあそれが美術その他の文化事業というものだ。

 話を聞きながら、それにしても運に恵まれている、と思った。個人的にも、戦時中、広島市で旧制中学生だった父利夫氏は、枇杷〔びわ〕を食べ過ぎて腹痛を起し、田舎に帰っている間に原爆が投下された。母もまた何かの都合で朝六時のバスで帰ったので、原爆を免れている。

天井が特徴的な近代日本絵画展示室

  さて館内を見てみよう。本館は木造の平屋で広々としている。天井の梁〔はり〕や柱がよく見渡せる、ウッディな造りだ。

 日本画のコーナーでは、来館者の人気投票によるベストワン展が開かれていた。結果として並ぶのはやはり美人画というか、白粉〔おしろい〕の匂うような婦人像が多い。そうだろうとは思う。

 洋画の方では近代日本の名のある画家の絵が、過不足なく並ぶ。高橋由一の「官軍が火を人吉に放つ図」に再会して驚いた。他での展覧会で初見したが、この館の所蔵品だったのだ。手前の川には舟が一艘静かに浮かぶが、遠くには火の手が上がり、目をこらすと橋の上や土手の向うを蟻のようにたくさんの軍勢が歩いている。遠景の動乱と近景の異様な静けさという、じつに不思議な絵だ。

 小出楢重〔こいでならしげ〕「枯木のある風景」も不思議な魅力があった。独特の肉感的な裸婦像で有名な画家だが、これは何と枯木がごろりだ。でも一目見て、小出楢重だと思う。遠くの高圧線上に小さく人影が座る。不思議に現実的な幻想感覚。資料によるとこれが絶筆とある。もう一度画面に眺め入った。

小出楢重 「枯木のある風景」 1930年

 絵画が終ると、薩摩焼が並んでいた。明治初期のヨーロッパでの博覧会で、一躍人気の出た巨大な焼物だ。細工は細かく、よく造ったものだと感心するが、その薩摩焼がずらりと、これでもかというくらいに並んでいるので、細部はもう見えなくなった。

 つづいて隣の新館には何と、ガレのガラス器がずらりと並ぶ。アールヌーボーの時代を代表する、手の込んだ、神秘的なガラス器だ。花瓶であったり、器であったり、ランプ台であったりと様々だ。どれも生活用具を超えて、きわめて作品性が高い。思わずじっと見入ってしまう。ガレといえば一点置かれているだけでも、その場のステータスがぐんと高まるものだけど、それが次々とたくさん並んでいるので驚いた。恐らく日本でも一、二を競うコレクション数に違いない。

左は薩摩焼、中央、右はマイセン磁器

 さらに新館の2階は、こんどはマイセンの磁器がずらり。これもまたその数には圧倒される。この新館は別名マイセン館となっている。マイセン独特のミルクと絹を連想させる肌合いが、どこまでもつづく。世にマイセンのファンは多く、はるばるこの館に一歩踏み入れたら、思わず溜息をつくことだろう。

(写真:川上尚見)

【ウッドワン美術館】
〈住〉 】 広島県廿日市市吉和4278  〈電〉0829(40)3001
http://www.woodone-museum.jp/

1996年、総合木質建材メーカー・株式会社ウッドワンの創業者中本利夫氏が、自身の故郷であり、会社発祥の地でもある場所に、地元への恩返しの思いを込めて開館。本館と新館(マイセン館)があり、本館には近代日本絵画と薩摩焼が、新館にはエミール・ガレのガラス作品、マイセン磁器などが展示されている。同じ敷地内には温泉宿泊施設「クヴェーレ吉和」、また「めがひらスキー場」などが建つ。広島駅から高速バスでの来館者には吉和サービスエリアから美術館まで、スタッフによる送迎サービスあり(要予約)。

〈開〉 10時〜17時
〈休〉 月曜(祝日は開館)、冬期休館(12月中旬〜3月下旬)、展示替え期間
〈料〉
 一般〈共通券〉1,500円/〈本館〉900円/〈マイセン館〉900円

◆ 「ひととき」2010年9月号より

 

 

 

 

 


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