2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2017年9月4日

米国の圧力は北朝鮮だけでなく中国にも

 北朝鮮との間の緊張がエスカレートし、米国が軍事プレゼンスを高めるにつれて、中国は、軍事的ゲームにおいても中国の存在感を示すために、自らの軍事プレゼンスを誇示しなければならなくなっている。それは、米国が圧力をかけているのが北朝鮮だけではなく、中国も対象になっているからでもある。

 米国が北朝鮮に対して圧力をかけるのは、北朝鮮を対話のテーブルにつかせるためだ。グアム周辺への包囲攻撃の計画を公表した後の8月14日、金正恩委員長は、朝鮮人民軍戦略軍司令部を視察し、戦略軍が発表していたグアム包囲射撃作戦案について報告を受けた際に、「米国の行動や態度をしばらく見守る」と述べた。

 これに対して、同月22日、トランプ大統領は、アリゾナ州フェニックスで開かれた集会で、「金正恩委員長が米国を尊敬し始めている」と発言し、「何か前向きなことが起こるかも知れない」と述べたことは、北朝鮮から何らかの対話についての働きかけがあることを示唆している。

 こうした状況から、米朝両国の態度には強硬と抑制の揺らぎが見えるとも言われるが、米国としては、北朝鮮が「米国は軍事力を行使しない」という誤ったシグナルを受け取らないように、対話を働きかけつつ、同時に軍事的圧力も強めなければならない。米国が軍事的圧力を強めれば、これに屈したと見られるわけにはいかない金正恩委員長も、より強い抵抗姿勢を見せなければならなくなる。

 米国の軍事力行使を避けたい中国は、米国からの、北朝鮮に対してさらに強い圧力をかけ、対話に応じさせるために働きかけを強めろという要求を完全に排除することはできない。米国は、中国に要求する際にも、中国の企業に対する制裁や他の安全保障問題をからめて圧力をかけている。

 中国にしてみれば、意にそぐわないカードばかりであっても、その中から、どれかを引かなければならないことになる。北朝鮮の核兵器開発問題は、中国にとって単なる米朝間の問題ではない。米国との間に存在する、複数の経済及び外交・安全保障問題について、どこに落としどころを見出すのかという、米中間の駆け引きの場にもなっている。

 8月16日、訪中した米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、中国東北部の遼寧省瀋陽を訪れ、中国人民解放軍北部戦区の軍事訓練を視察した。中国軍事科学院の研究者は、「この視察は米国側の要求に基づくものであろう。中国が最終的にこれを受け入れたということだ」と述べている。

 中国新華社の報道は、房峰輝統合参謀部参謀長との会談内容について米中協力ばかり強調し、北朝鮮問題については、「台湾、南シナ海、北朝鮮の核問題等の共通の関心事について意見を交換した」と述べるに止めているのは、米国と北朝鮮問題について協議したことを強調したくないからだ。米国国防総省が、「北朝鮮に最も近い瀋陽に訪れた」と、今回の訪中の主たる目的が北朝鮮問題であることを強調したのとは対照的である。

 8月25日夜、中国商務省は、北朝鮮との新たな合弁企業の設立を禁止する通知を出した。中国は、国連安保理の制裁決議に基づく措置だとしている。中国自身、北朝鮮の核兵器保有には反対しているが、強い経済制裁の履行は、米国に協力していると受け取られる。

 習近平指導部は、米国に対して弱腰であるという批判を避けるためにも、これら制裁は中国自身の判断によるものであり、米国に対しては対抗できる、という姿勢を示さなければならない。中国は、軍事力以外でも、米国に対するけん制を行っている。8月15日、中国商務省の報道官は、トランプ大統領が対中貿易制裁に関する調査の検討を指示したことを受けて、「決して座視しない」と強い調子でけん制する談話を発表した。

 一方の米国も、中国に対して簡単に制裁がかけられる訳ではない。米中両国は、北朝鮮に対する圧力を巡り、米中二国間の経済や安全保障の問題で複雑な駆け引きを続けていくことになる。

  
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