2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月5日

 米議会両院は圧倒的な多数で対ロ制裁を維持、強化する法案を採択しました。その法案では大統領令で制裁を一時停止するのも不可としています。トランプは拒否権を行使しても、両院で3分の2以上の多数で再可決されればどうしようもなく、拒否権行使は見送りました。

 トランプが目指してきた米ロ関係改善は、これでほぼ実現しなくなったと見てよいでしょう。

 米ロ関係がウクライナ問題その他で悪化してきた主たる責任はロシアにあります。そうした中で、無原則な対ロ宥和姿勢は全く好ましくないことです。米議会が制裁の維持を決めたのは、米国の良識を示したと評価されるべきでしょう。

 大統領の外交権限に議会がこういう制約をかけるのは問題であるとの、もっともな批判がありますが、今回の事態は、トランプの対ロ外交についての不信が異例に強いことを示しているということでしょう。

 プーチン大統領は7月30日テレビのインタビューにおいて、「我々は状況が良くなるのではないかと長く待ち続け、希望を抱いていた。しかし、すぐには変わることはなさそうだ」と述べ、この法案に対抗して、ロシア在住の米国の外交官や職員755名を削減することを表明しました。オバマ政権時に米国はロシアのサイバー攻撃に対する制裁として、35名の諜報関係者の追放と米国内関連施設2か所の閉鎖を行いましたが、ロシアはトランプ政権への期待からか、報復することを控えてきました。今回は、制裁法案への反発と控えていた報復の実施ということで、かなり大きな数の米国外交官や職員の削減になりました。

 冷戦時代には追放合戦も「一人やられれば一人追放し返す」というのが相場でした。つまり、同人数が原則でした。今回の人数にも何らかの根拠があるはずですが、それについての説明がないので、よくわかりません。米国が再報復するのかどうか、それに対しロシアがどうするかを見ていく必要がありますが、今後どうなるかについては、米ロ双方ともに外交当局は追放合戦をエスカレートすることは好まないので、落ち着くところに落ち着くでしょう。

 この対ロ制裁法案については、ノルドストリーム2(ウクライナやポーランド、白ロシア、バルト諸国を通過せず、直接ロシアからドイツに天然ガスを送る2番目のパイプライン)建設の障害になると、主としてドイツが問題を提起しています。これに対し、欧州への通過パイプラインを有するウクライナなどの国は、ノルドストリーム自体に元々好意的ではありません。ラスムセン元NATO事務局長は、7月27日付けフィナンシャル・タイムズ紙への寄稿論説‘Transatlantic fallout over Russian sanctions is dangerous’で、この制裁法案について米欧が割れることはロシアを利するだけである、欧州側も制裁強化に賛成すべきであり、米欧は団結すべきである、それにノルドストリームへの制裁の影響は自動的ではなく、米大統領の裁量による、と論じています。適切な意見です。


  
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