2024年4月18日(木)

塚崎公義の新・日本経済入門

2017年9月7日

公的年金制度の基本は、現役世代が高齢者を支えること

 国民年金も厚生年金も、現役世代が支払った保険料で高齢者の年金を支払うことが基本です。自分たちの世代が払った年金保険料を長期間運用しておいて、将来の自分たちが受け取る、というシステムだと、インフレが来た時に困りますが、現役が高齢者を支えるシステムであれば、インフレが来ても、「現役世代の収入が増えるから、現役世代から徴収する年金保険料を増額して高齢者に支払う年金も増額しよう」ということが可能になるわけです。

 しかし、問題もあります。少子高齢化が進むと、現役世代の人数が減り、高齢者の人数が減らないので、高齢者1人を支える現役世代の人数が次第に減っていくのです。そこで政府は、現役世代の支払う年金保険料を少しずつ引き上げると同時に、高齢者に支払う年金も少しずつ減らしていくことにしています。これを「マクロ経済スライド」と呼びます。現在の想定よりも少子化が進んだり、経済成長率が下がったりすれば、高齢者が受け取れる年金は、現在の想定よりも速いペースで減額させてしまうかも知れません。

 しかし、多くの人が心配しているように、「今の若い人は、老後は年金がもらえない」ということはなさそうです。専門家たちが口を揃えてそう言っているので、ご安心ください。ちなみに厚生労働省の試算では、将来の高齢者の受け取る年金は、悲観的なケースでも現在の高齢者の2割減(インフレ分は調整した実質ベース)ということです。チョット楽観的かもしれませんが、もらえないということはないでしょう。筆者は、別の意味で安心しています。今の高齢者は昔より元気ですから、今後は「70歳まで働いて70歳まで年金保険料を支払い、70歳から年金を受け取る」時代が来ると予想しているからです。

3階部分は其々だが、注目は「iDeCo(確定拠出年金個人型)」

 確定拠出年金には企業型と個人型があります。企業型は勤務先企業の制度なので、企業ごとにそれぞれですが、個人型は全国一律の制度です。こちら(※厚生労働省のHPが別タブで開きます)の下段にある図では、適用範囲が限定されているように見えますが、2017年から制度が変更になり、現在では原則として誰でも加入することができます。もっとも、元々は厚生年金が無い自営業者のための制度ですから、今でも自営業者は積立限度額がサラリーマン等より大きくなっています。

 毎月の積立限度額の範囲内で積み立てていくわけですが、大きなメリットとして、所得税計算の際に所得控除出来ることが挙げられます。給料に税率をかけて所得税額を計算するのですが、その際、給料から「iDeCo」の積立額を差し引いた金額に税率をかければ良いのです。将来、年金を受け取る時には税金が課せられますが、現役時代に支払うはずだった税率よりは低くなる場合が多いでしょう。

 今ひとつのメリットは、運用益が非課税だ、ということです。通常だと、株式投資の値上がり益や配当などには20%強の税金がかかりますが、それが「iDeCo」だと非課税なのです。これも、長期運用の際には大きなメリットとなるでしょう。

 「iDeCo」の今ひとつの特徴は、原則として60歳まで引き出せないということです。これは、デメリットのようでもありますが、意思の弱い人が老後資金をしっかり貯められるように、という政府の「親心」だと思えば、これもメリットだと考えても良いでしょう。

専業主婦は、年金上の身分の変化に要注意(補論)

 専業主婦は保険料を払わないのに、サラリーマンの妻が働きに出て共働きとなると、2人とも厚生年金保険料を払わなければなりません。もっとも、サラリーマンの妻の収入が130万円未満の場合(勤務状況等によっては106万円未満の場合)には、収入があっても専業主婦と見做されるので、多くの主婦が、パート収入が年間130万円以上にならないように注意しながら働いていると言われます。「130万円の壁」と言われる現象ですね。実際には、130万円以上働くと厚生年金保険料を支払うわけで、老後に厚生年金が受け取れるわけですから、生涯所得的には損とは限らない(長生きをすれば得になる)わけですが、遠い将来の老後のことより今年の保険料を払わないことを重視している人が多いようです。

 女性は、それ以外にも注意が必要な場面が数多くあります。学校を出て就職するとサラリーマン(第2号)になり、結婚や出産で退職すると、相手がサラリーマンの場合には第3号になりますが、相手が自営業者の場合には第1号になります。後者の場合、自分で届け出をしないと年金保険料の未払いとなり、老後の年金が受け取れなくなる可能性があります。

 気をつける必要があるのが、サラリーマンの専業主婦である女性が、夫が退職して自営業者や失業者になると、自分も第1号になるので届け出をして年金保険料を払い始めなくてはならないことです。しかし、夫が失業して今までよりも生活が苦しくなったのに年金保険料の負担が新たに生じるのは大変です。市区町村で免除の手続きをしましょう。失業した場合、前年度所得が高くても、免除となり、保険料の負担はありません。

 最悪なのは、夫が妻に失業したことを打ち明けられずに、妻が自分の年金上の立場が変化したことに気付かない場合です。夫婦間の隠しごとはいけませんが、特に失業した時は正直に言いましょう。

 女性は、このように年金保険料の支払い義務を知らない間に怠ってしまう可能性が多いのですが、男性も転職などの際に無職の期間があったりすると、そうした可能性があるでしょう。サラリーマンから自営業者に転向した時に年金の届け出を忘れていることもありえますね。

 そうした時に気付かせてくれるのが、年に一度送られて来る「ねんきん定期便」です。誕生月に届くはずですから、自分が年金をきちんと払っているか、必ず確認しましょう。自分が払っていても、「消えた年金」のように、役所がミスをしている可能性もありますから。

  
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