2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月15日

 8月15日、英国政府は将来のEUとの関係に関する英国の立場を取り纏めた一連のペーパーの最初のものとして、通関取決めに関するペーパーを公表しました。

 この中で、英国政府は時限的な移行期間のための関税協定をEUと交渉する意図を表明しています。障害のない貿易の現状を維持するには単一市場へのアクセス確保のための手当も必要なはずですが、このことには言及がありません。しかし、英国は移行協定の数多くの側面をEUと共に検討するとの記述があるので、いずれ具体的な方針が示されるのかも知れません。また、英国は2019年3月の離脱後に第3国との貿易協定の交渉を始めますが、移行協定と相容れない協定を発効させることはしないと述べています。

 移行期間経過後の通関の問題については、英国政府は、この社説にある2つのオプションを追求したいとしています。それぞれ、ビジネスにとって新たなコストになることは避け得ないでしょう。それはEUを離脱する以上仕方がないことです。ここでも単一市場へのアクセスの問題には言及がありませんが、ペーパーには「深い特別なパートナーシップ」の他の側面についてはいずれ提案を示すとの記述があるので、そこに含まれるのでしょう。関税の問題もそこに含まれるのでしょう。

 この社説の論旨には賛成できません。ペーパーが移行協定の必要性を認めたことは評価しつつも、将来の通関手続きに関する提案は、希望的観測だとか良いとこ取り、詳細を欠き散漫だとかと酷評しています。EUがどう反応するかは予測の限りではありませんが、Brexitをなるべくソフトにしようと思えば、この種の可能性を探る努力は必要となります。ビジネスに優しいBrexitを主張して来たフィナンシャル・タイムズ紙は、この種の努力を貶める立場にはないはずです。そもそも、ペーパーはビジネス界との協議のたたき台との位置づけでもあるので、「詳細を欠き散漫」云々の批判は当たらないように思います。

 EUは「移行期間と将来の関係に関する希望は承ったが、秩序ある離脱の条件について満足すべき進展があって初めてこれらの問題を検討することになろう」という当然のコメントをしています。EU離脱に伴う清算金の問題の交渉は膠着状態のようですが、8月6日、サンデー・テレグラフおよびロイターは、英国政府では400億ユーロ程度の支払いに応ずる、具体的には離脱後3年間毎年100億ユーロを支払う、残りの正確な額は将来の貿易関係の交渉と並行して交渉するとの提案が検討されている、と報道しています。英国が抜けた後の予算負担の肩代わりはいずれの加盟国も逃れたいに違いありませんから、これが梃として有用と見た英国の作戦かも知れません。社説は政府の交渉振りは滅茶苦茶だといいますが、なかなかの粘り腰の交渉振りかも知れないとの印象を受けます。

  
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