イノベーションの風を読む

2017年9月7日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

その3. 「ものづくり」もコモディティ化する 

 中国珠江(しゅこう)河口の広州、香港、深セン市、東カン市、マカオを結ぶ三角地帯は、パールリバーデルタ(PRD)と呼ばれています。PRDは国の領土の1%未満、全人口の5%未満であるにもかかわらず、GDPの10%以上、輸出の25%を生み出しています。この「世界の工場」と呼ばれた地域は、現在、競争の激化と労働力の縮小という国家的な問題に直面していると、英エコノミストは次のように報告しています。

 東南アジア諸国や他の地域との激しい競争によって海外からの直接投資(FDI)が減速している。そして、中国全体が高齢化し労働力が縮小しているため、PRD地域への移住者の流れは枯渇し、広東省への正味流入は昨年は60万人で、110万人だった2008年以来ほぼ半減している。同期間、貧困地域である湖南省の労働者の純流出は、28.6万人からわずか3万人にまで減少した。

 国際連合ロボット連盟(IFR)によると、中国政府は、10年国家計画「Made in China 2025」に基づいて工場の自動化を急速に推し進めていて、ロボットの年間の導入台数も稼働台数も世界最大になっています。特に電気・電子産業への導入が目立ち、それは単に人件費の削減や人手不足の解消を目的としたものはなく、コンピュータの制御、モデリング、ビッグデータ、AIなどの自動化を利用して、精度と製造効率を向上させるプロセスの実現を目指しています。

 「ものづくり」は、生産や製造を意味する言葉として使われることが多いと思います。漢字を当てるならば「もの造り」ということになるでしょう。もちろん、スマートフォンなどに使われる精密部品や職人技による加工製品など、日本が世界に誇ることができる「もの造り」は、まだ残っています。しかし、それらのアドバンテージも、間もなくAIとロボットによって消失すると考えるべきでしょう。

 パナソニックもソニーも、「ものをつくって売る」事業部門の業績を回復させることに成功しました。改善が見込めない事業を売却し、残した事業の「ものづくり」を、オペレーショナル・エクセレンスを向上させることによって黒字化しました。しかし、「もの造り」は自動化が進むことによってコモディティ化します。すでにあるもの(例えばスマートスピーカー)にちょっと機能を足して製品化するようなことの繰り返しでは、事業の成長どころか継続させることも難しくなります。

 既存の製品事業の中で、新たな価値を創造する「もの創り」が必要です。それができなければ、賞味期限の過ぎた事業のリストラや売却、そしてM&Aによって会社を存続させるしか道はありません。

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