World Energy Watch

2017年9月13日

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投資のリスク 不透明なコスト競争力

 工費の上昇は、発電コストに大きな影響を与えることになる。表-1に米国の電源別発電コストが示されている。水力発電に競争力があるが、既に償却が終わっている設備が多いためだ。米国には新規水力発電の適地はなくなっているので新設は無理だ。原子力にも競争力があるが、既に償却が終わった設備が多いためであり、新規に設備を建設すれば設備の償却費により、操業費が高くなる筈だ(償却費は手元に残る資金であり、収益率の計算時には考慮するが、企業は継続して発電設備を建設する必要があり、その原資として使用されると考える)。


 VCサマー原発2基の建設費を180億ドルとし、稼働率90%の前提で償却額を計算すると、当初20年間は1kWh当たり約4.6セントになる。この費用負担により原発の発電コストは、相対的に高くなる。原発には電気料金の安定化、低炭素電源として温暖化対策に寄与、安全保障向上のメリットがある。例えば、ジョージア州に建設されているボーグル原発について、同州の公共事業委員会は、天然ガスには輸送上の脆弱性があるので、安全保障上ボーグル原発の建設を行うべきと指摘している。

 しかし、経済性の面では、VCサマーの競争力に疑問符が付く。米国ではシェール革命により発電所向け天然ガス価格は下落している。最近少し上昇しているものの、発電所向け天然ガスと石炭価格の推移は図-3の通りだ。将来の化石燃料価格によっては、償却負担の大きくなったVCサマーは競争力を失う可能性がある。将来の化石燃料、電力価格を見通すことはできないので、競争力が不透明になる中で、償却負担の大きい投資を行うことは難しい。今回、VCサマーの建設が一旦中止された理由だ。

 しかし、英国ではヒンクリー・ポイントC原発の工事は、工費が増えたにもかかわらず、予定通り進んでいる。VCサマーと何が違うのだろうか。

原発建設にはリスクの抑制が必要

 エネルギー資源に恵まれた米国の電気料金は、先進国一競争力がある。米国の家庭用電気料金は1kWh当たり約13セントだ。欧州の中では競争力のある英国の家庭用電気料金は米セント換算で約22セントだ。米国より70%ほど高い。英国は石炭の大半、天然ガスの半分を輸入しているためだ。

 電気料金が高いため、米国との比較では収入は多くなり、国によるコストの違いがあまり大きくない原発は有利だ。しかし、先述の通り将来の化石燃料価格、火力発電のコストは不透明であり、やはり投資のリスクはある。電気料金の安定化、温暖化対策、安全保障上原発が必要と考えた英国政府は、事業者の収入減のリスクを回避するため、ヒンクリー・ポイントCの事業主体であるEDFとCGNに対し、発電された電気を35年間にわたり1kWh当たり日本円換算約13円で買い取ることを保証した。

 320万kWの能力のヒンクリー・ポイントCの投資額は181億ポンド(約2兆6000億円)、完成予定は2025年だ。最近になり、EDFは投資額が15億ポンド増え、総額196億ポンド(約2兆8000億円)になり、さらに工期が15カ月、工費が7億ポンド増え200億ポンドを超える可能性があるとも発表した。

 EDFによると当初見込みのIRRは9%、工費が196億ポンドに増加した場合のIRRは8.5%、さらに200億ポンドを超えた場合でもIRRは8.2%だ。発電設備のようなインフラに対する投資としてのIRRはかなり高い。この高いIRRは発電された電気の買取りが保証されているため達成可能だ。運転期間中の買い取り総額は1150億ポンド(約16兆円)、年率2%のインフレ前提では1600億ポンド(約23兆円)との試算も報道されている。多少工費が増えても、収益性に大きな影響がないレベルの収入額と言える。もちろん、原発を建設するリスクはEDFとCGNが引き受けているが、ともに政府系の企業だ。

どうする日本 政策は?

 日本の2030年の電源構成案の見直しが開始されたが、現行の案では温暖化対策の必要もあり、原発の比率は20%から22%となっている。原発の建て替え、あるいは新設が必要だが、将来の化石燃料価格、各電源の競争力が不透明な自由化された市場で、原発の建設を行う事業者はいるのだろうか。

 国際エネルギー機関によると、温暖化対策を行うため2060年の世界の原発の発電量は現在の3倍になる必要がある。日本企業が依然として競争優位を持つ原発技術に大きな需要が期待される。国内において原発建設のリスクをどう抑制するのか、大きな市場になる海外の電力市場での競争力をどのように強化するのか、制度の検討が早急に必要だろう。このままでは、海外の原発市場は仏、ロシア、中国、韓国の政府系企業の独壇場になる可能性がある。ひょっとすると、日本の原発建設を中国、韓国企業が引き受けることになるかもしれない。

  
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