ヒットメーカーの舞台裏

2010年9月27日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 ぬか漬けに付きものの臭い漏れを防ぎ、かき混ぜる手間も軽減した。価格は漬物容器として決して安くない6900円だが、ぬか漬けを敬遠していた若い主婦層らに評価され、2009年8月の発売後、約1万個が売れた。今年7月からは量産体制が整い、販路も従来のネット販売のみから大手の雑貨チェーンなどに広げている。

 素材は見た目が美しく丈夫なアクリル樹脂で、赤、オレンジなど5色を揃えている。直径15センチの円筒形の本体のほか、ぬか床から余分な水を取り除く「加圧除水ぶた」、および臭いをシャットアウトする「防臭保護ぶた」で構成される。

こちらは、においを防ぐ「防臭保護ぶた」
「ぬか漬け名人」の本体内部に挿入する「加圧除水ぶた」













 

 加圧除水ぶたには直径2ミリの穴が8個開けられており、ここから余分な水がにじみ出るようにしている。ふたは中央部に重しを収容するための筒が取り付けられている。重しは、小さなPETボトルに水を詰めたものなどでよい。ぬか床の水分は、野菜が漬かる際に放出するもので定期的に取り除かねばならないが、その作業が簡略化された。同時に加圧除水ぶたは、ぬか床に密着させるようにしており、ぬか床がほとんど空気に触れないことで、悪臭や腐敗の抑制につながっている。このため、ぬか漬けには毎日必須だった、ぬか床のかき混ぜからも解放される。もう一方の防臭保護ぶたは、ドーナツ型の平板状であり、除水穴から漏れる臭いを遮断する。

 開発したヒョーシンは滋賀県長浜市の樹脂製品加工メーカーであり、大手のスーパーや文具メーカー向けに、さまざまな商品の陳列ケースなどを製造・販売している。ぬか漬け名人は、ひょんなきっかけから社長の田中兵衛(66歳)が、試行錯誤して商品化した。

ピンチをチャンスに

 きっかけは、3年前の素材の誤発注だった。文具の展示ケースを作るためにアクリル製パイプを発注し、切断などの加工によって製品に仕上げた。ところが、納品前の検査で田中は愕然とする。受注した製品の仕様とはパイプの径がわずかに異なっていたのだ。納品先に了解を得れば何とかなりそうな気もするが、「こちらから提案させていただいた商品なので」と、田中は即座に本来の寸法で作り直した。

 素材の誤発注で商品にならないケースが50個ほど倉庫に積まれた。「これで何かを作ろう」。この道50年の田中に、職人魂がムクムクと湧いてきた。ケースの高さは20センチほど。水桶など、さまざまに用途を考えた。そのなかで、これだと思ったのは自分でも作っている漬物だった。名産に鮒寿司があるように、滋賀県では発酵ものが食文化として根付いており、家庭での漬物づくりも盛んだ。地域の寄り合いなどでは各人が自慢の漬物を持ち寄ることも多い。田中は母から受け継いだぬか床をもっており、日ごろから「もっと簡単に漬けられる方法はないものか」とも考えていた。

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