2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月28日

 海洋権益を死守・拡大したい人民解放軍を中心とする中国国内の強硬派が、「強い中国」を求めてナショナリズムを高揚させる国内世論をバックに、存在感を高めていることと無関係であるまい。

「発展」「協調」「強硬」共産党内部の3派閥

 米国防総省は、8月中旬に発表した「中国に関する軍事・安全保障年次報告書」のうち「将来の戦略に向けた論争」という項目で注目すべき分析を行っている。

 それによると、中国はどうやって国家の安全・主権・領土保全を守りながら、持続可能で安定した経済・社会発展を維持するか。そして米国や隣国との摩擦を回避し、いかにこれらの目標を達成するか。中国内部ではこうした難題について時に見解の違いが表面化するとした上で、内部にどういった派閥(グループ)があるか解説しているのだ。

(1)鄧小平が唱え、1990年代以降の中国外交の基本方針となった「韜光養晦(才能を隠し外に出さない)」に基づき、野心や覇権を否定し国内の発展を優先するグループ

(2)米国や域内諸国と積極的な協調を推進することで中国の影響力を高めるとともに、中国の台頭がこれら国々の安全保障に脅威を与えないと確証を与えることを重視するグループ

(3)米国による「中国封じ込め」や、日韓などの影響力に対抗し、国益を守るよう強硬な立場を主張するグループ

 いわば指導部内では「発展優先派」「国際協調派」「対外強硬派」が拮抗している、という見方だ。

領土問題の既成事実化に成功した
温家宝のプロパガンダ

 中国は従来の台湾、チベットばかりか、南シナ海も「核心的利益」と位置付け、領土・主権問題では「決して退かず、妥協もしない」(温家宝首相)姿勢を国内外に鮮明にしているが、こうした「核心的利益」論を主導しているのは、明らかに軍を中心とした対外強硬派だ。

 国内の経済発展を維持するために必要な海洋エネルギー資源、シーレーンなどの権益は中国の死活問題。南シナ海、東シナ海は今や中国の生命線であり、その主権を死守することは、いくら日本との戦略的互恵関係を唱える胡錦濤国家主席、温首相といえども追随せざるを得ない重要課題と化している。しかも2年後に第18回共産党大会を控えた政治的に敏感な時期に、党内融和を図る観点から軍など強硬派の主張に配慮せざるを得ない。つまり胡指導部の「保守化」路線は一層進んでいると見るべきなのである。

 「核心的利益」とは何なのか。国防大学の韓旭東副教授は、国営新華社通信発行の時事問題誌『瞭望』(7月26日)でこう解説している。

 「もしわが国が某国家と、ある“利益”で衝突が発生した際、両当事者はその“利益”こそが核心的利益と認識する。そのような状況下で双方は、軍事手段で解決する可能性が極めて高い。そのため誰もが国家の核心的利益を安易に放棄できないのだ」

 今回の尖閣衝突事件のキーワードは「2つの既成事実化」である。


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