2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月29日

尖閣問題も解決せず
日中関係も改善しない最悪の状況へ

 しかし「それは結局のところ、強硬な主張を声高に唱えることで相手を圧倒しようとする中国共産党のいつものやり方に過ぎない」と考えていた筆者は、「尖閣問題は別に難しくなく、一切無視して日本の法秩序に則って処理すれば良い。これは中国共産党約80年の宿癖が国際的に最早通じないというメッセージを中国に痛感させる好機であろう」と考えていた。それが一転、事実上の「超法規的措置」による釈放とは一体どういうことであろうか。筆者はニュース速報に触れた即座に、これは日本外交が戦わずして敗れ、日本の国家主権がかつてない危機に直面したと直感せざるを得なかった。

 少なくとも、船長を釈放したところで尖閣問題が解決し、日中関係が従前通りに改善することは有り得ない。河北省で軍事施設撮影の嫌疑で拘束された日本人の安否をはじめ日中関係全般を考慮しての釈放というが、中国は国際関係において一旦相手国から譲歩を引き出して自国が決定的に有利になったとみれば、外国からの配慮に積極的に応えることはない。況や、中国は「釣魚台は自国の領土であり、日本当局のこれまでの措置は全て違法である」という態度で一貫しているのだから、中国からみれば「日本が違法状態を改めたに過ぎない。自国内での軍事施設盗撮は別の問題である」と見ているに過ぎない。中国はむしろ「中国の領海で日本側が起こした今回の問題について日本側が謝罪と賠償をしない限り、我が国の軍事情報を窃取しようとした日本人を釈放することなど有り得ない」という態度をとるとしても不思議ではない。

歴史的転換点となった
9月24日の船長釈放

 日本は今回、領海を侵犯するのみならず海上保安庁の活動に物理的な打撃を与えるような行為を無罪放免で済ませたのであり、それは領海に対する国家主権を放棄したに均しい国際的メッセージを発したことを意味する。過去、尖閣諸島の領有権を主張する台湾の抗議活動船が、海保との衝突の際に事故で沈没し、日本側が賠償金を払っているが、今回の事件はそれとは比較にならない重大な案件である。それにもかかわらず「政治的判断で」起訴すらしなかった以上、今後日本の領海・領土で中国漁船、さらには中国の軍・海洋調査当局が同様の侵犯に打って出るとしても、中国政府が圧力をかけさえすればその都度必ず日本側は折れて何も出来ないだろうという過信を与えたことになる(実際、早速中国側は盛んに船を尖閣近辺に送り込んでいる)。この問題はさらに、中国との間に同様の問題を抱える諸国にも深い動揺を与えているのではないか。日本外交の存在感、あるいは信頼感そのものが地に墜ちた9月24日が、後世から見ても歴史的転換点と見なされることを深く恐れる。


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