2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年10月1日

 それは朝令暮改といってしまえばそれまでだが、軍事的なものを日常目にする機会が少ないほとんどの日本人には、その潮目や気配を察知する能力が欠如しているようにも思われる。筆者は米軍厚木基地の近隣住民であるので、国際情勢に応じて基地の警戒レベルがどのように変わるかについて身を以て知っている。まだ冷戦が続いていた頃、鉄道少年だった筆者が燃料輸送列車の基地到着シーンを撮影しようとしたところ、「カメラを壊すぞ」と警備の軍属に脅されたものである。米軍ですらそうであるので、人民解放軍が自らの利益を犯そうとする外国人に対して突如強い疑いを向けること自体は何ら不思議ではない。しかも中国では、一般に軍事施設(居住地・貯蔵基地を含む)の周辺には「軍事管制区」の看板とともに「外国人勿入 (入るなかれ)」という警告文がご丁寧にも (?) 添えられている。それにもかかわらず日本人が禁を犯すとすれば、とりわけ日中関係の緊張の折である以上、普段なら警告して追い払うのみで済ませるところを過剰反応して(あるいは「上級の命令」で)拘束に至ることはそもそも十分有り得たことである。君子危うきに近寄らず、である。

軍用地は思わぬところで現れる

 しかし、以上はあくまで原則論である。筆者は、今回河北省石家荘市で事件に巻き込まれた日本人を非難するつもりは全くなく、むしろ強く同情し今後を憂慮するものである。何故なら中国の場合、場所によっては道路に掲げられた看板を見落とす可能性が高く、一般の工場・住宅街・農地と軍用施設が混在していることが少なくないためである。加えて、そもそも軍事的にきわめて重要な場所では、そこが軍事的に重要であること自体を隠すために何も表示しない可能性が極めて高いという問題がある。

 今回事件が起こった石家荘市は、毒餃子事件の天洋食品でも知られる場所だが、ここはもともと日中戦争後に日本軍が軍事・鉄道の要衝として大々的に開発して以来の新興都市として省都に成り上がった場所である。したがって、自ずと軍事施設が市内各地に点在しており、今回の日本人の訪問目的である日本軍遺棄化学兵器除去事業の入札前調査も、軍の「禁区」に極めて触れやすい状況であったことが推測される(たとえ現在は遺棄兵器が放置されている場所であっても、そのすぐ至近に日本軍から引き継いだ現役の軍用地があることは当然あり得る)。

国家指導者の脱出用?
北京にある秘密の地下鉄

 軍用地が思わぬところで現れるのは地方都市に限らず、北京でも言えることである。北京の市街地図を見ると、地下鉄1号線の西側の「終点」である蘋果園(りんご園)駅の北西、北京名所のひとつである西山の「八大処公園」の西はぽっかりと空白になっているが、ここは北京軍区の所在地であり、実際には軍区の建築物がびっしりと谷間を埋め尽くし、蘋果園駅からは有事の際の国家指導者脱出に用いると思われる秘密の地下鉄も軍区内(高井駅)まで延びている。(http://bbs.hasea.com/viewthread.php?tid=312188&extra=&page=1 中国語サイト)勿論、軍区に接近すれば拘束されるが、その付近を北京市北西の風光明媚な山岳地帯に向かう主要道路が通っており、工場・住宅街との境界が曖昧であるゆえ始末が悪い。

 いっぽう少数民族地域に視線を転じると、青海省は核兵器開発・配備で知られ、とくに弾道ミサイルの一大基地であるデリンハ(徳令哈)市は、青海省第三の都市・海西モンゴル族チベット族自治州の州都でありながら、(http://www.qh.xinhuanet.com/misc/2009-05/15/content_16538976.htm 中国語サイト)長年外国人の訪問を頑なに拒む厳重な閉鎖都市である(最近中国人旅行者が書いたブログをキーワード検索で見ていても事情は変わらないらしい)。


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