2024年4月26日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年10月1日

数時間の取調べが待っている
恐怖の列車

 実際、ラサへ向かう外国人観光客が利用する可能性が高い列車は全てここを夜間に通過するし(しかも1984年に部分開通した区間の建設工事では労働改造犯が大量に酷使され、彼らを収容した監獄の廃墟が随所にあるので見られたくないのだろう)、筆者が利用した14年前には、車両ごとに乗っている服務員もここに近づくと執拗にカーテンを閉めに来たものである。しかし、事情が分からないバックパッカーがこの都市の表の看板に惹かれて列車を途中下車し、モンゴル・チベット人の世界を楽しもうと期待を膨らませた次の瞬間、公安に拘束されて訳も分からず数時間厳しい取り調べを受けるという事例もある。青海チベット鉄道が全通する前、ラサへ向かう旅行者が集まるゴルムド(格爾木)の安宿にて、白人バックパッカー夫婦からその恐怖の体験を聞かされた筆者は、「いや、あそこは核閉鎖都市だから」と説明したのだが、その瞬間彼らが大いに納得していたのを思い出す(要するに彼らは取調中も、ここが中国における弾道ミサイルの一大基地であることを知らされなかったのである! ちなみに、デリンハは中華人民共和国の領域のちょうど中央付近にあり、ここを中心に円を描けば中距離弾道ミサイルでもロシア・インド・日本を同時に射程に置くことが可能である)。

先軍政治の国は
北朝鮮だけじゃない

 このように、中国ではいくら対外開放が進んだとはいっても、根本的には国家を樹てた根本である人民解放軍の立場が優先される「先軍政治」の国でもある(北朝鮮に限ったことではない)。その解放軍の利益を守るためであれば必要な情報も開示されず、何も知らない外国人が突如危機に陥れられることも当然ありうる。それを避けるためには、たとえば都市周辺での各種調査の場合、事前に可能な限り詳細な地図を手に入れ、地図での空白にも関わらず建築物の密度が高い場所を疑ってかかって良い。あるいは、省・自治区によっては、対外開放・非開放地域を公表しているところもある(非開放地域の旅行は、その地域最寄りの主要都市の公安局で外国人旅行証を取得すれば可能だが、許可が下りない場合は明らかに軍事・資源などの機密にかかわる場所である)。ともあれ、このような国での自由な調査・経済活動は相変わらず絵に描いた餅に過ぎないことだけは銘記されるべきであろう。

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◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)

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