イノベーションの風を読む

2017年10月13日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

「a part of everyone's life」

 ペインのプレゼンを聴きながら、スティーブ・ジョブズが2001年にiPodを発表したときに使ったフレーズ「a part of everyone's life」を思い出しました。なぜアップルがiPodで音楽の市場に挑戦するのか、それは音楽が「人々の人生の一部だから」だという文脈でした。人々は皆(ジョブズも)、音楽が大好きだという意味もあったでしょうが、それ以上にアップルという企業が挑戦する価値があるほど「大きな市場」だということだと思います。ペインも「私たちは皆、写真が大好きです」という言葉でプレゼンを始めました。写真も「人々の人生の一部」であり、そして非常に「大きな市場」です。

 新しいプロダクトを生み出したジョブズのような人は、他の人が気づいていない問題に気づき、自分がほんとうに欲しいと思うものを自分でつくりました。画期的なアイデアは、最初はバカげたものに見えることがあります。AIがシャッターを切るClipsは、バカげたものに見えるかもしれません。それでは、写真を撮る楽しみがなくなってしまうと否定する人もいるでしょう。最初の製品は、期待するほどには賢くないかもしれません。ペインも、「ソフトウェアがカメラのコアになっているので、時間とともに(学習して)スマートになっていく」と話しました。

 掃除機が発明されてから長い間、掃除機は箒の代わりに人が持って掃除をする道具でした。そして自動車は、人がハンドルを握ってアクセルペダルとブレーキを踏み分けて運転するものでした。しばらく前に、シフトバーとクラッチペダルの操作という作業は不要になりました。多くの人にとって掃除は解放されたい作業のはずですから、ルンバが掃除機に取って代わることを残念に思う人は少ないでしょう。

 やはり多くの人にとって、自動車は快適に安全に目的地まで移動するための手段です。その目的は、ファンツードライブ(運転の楽しみ)よりも優先します。同様に、Clipsがターゲットとしている子供を持つ親にとって、子供の自然な笑顔、最初に歩いたとき、最初のいたずらなどの、束の間の、いつ起きるかわからない瞬間が確実に記録されることが、「写真を撮る楽しみ」に優先すると思います。

 イベントのタイトル「Made by Google」にも表れているように、グーグルはハードウェアへの取り組みを強化しています。イベントでは「ハードウェアを徹底的に見直す」という表現が何度か使われました。アップルが好んで使う「再発明する(reinvent)」という言葉に対して、グーグルは「見直す(reimagine)」、AIファーストで、ソフトウェア起点でハードウェアを見直す。これまで不可能だったことが可能になったかもしれない。これは、ぜひ日本のメーカーも取り組んで欲しいことです。

 Clipsは日本のカメラメーカーに生み出して欲しかった。しかし、その多くは去年と同じような製品をつくり、昨日と同じ仕事をしているようです。ハードウェア起点では、機能の追加や性能の向上といった「正常進化」しか考えることができません。それは他社の製品と比較することが容易で、新製品の企画会議での合意も得やすい。そして、過去の製品の陳腐化戦略というお呪いで、縮小する市場で絶望的な製品をつくり続けることになります。

  
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