2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年10月4日

 そして現時点では、中国政府は、この厳然たる事実を変えることができないのである。「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土である」と、北京政府がいくら強気になって主張しても、尖閣諸島は日本の領土として日本国の支配下にある事実は変わらないし、日米両国との全面的軍事衝突に突入する覚悟がない限り、中国は日本国の尖閣諸島領有と支配をひっくり返すような有効な手段は何も持たない。「釣魚島は中国の領土である」という自らの主張と、尖閣諸島が実際に日本の領土として日本国の支配下にあるという事実との狭間にあるのは中国の方なのである。

 それどころか、中国の漁船が「中国の領土」で拿捕されたことを阻止することも、中国人船長が日本の国内法に則って拘置されるのを食い止めることもできなかった。結局、「釣魚島はわが領土」と主張すればするほど中国政府自身の立場がよりいっそう悪くなるのであり、日本に抗議すればするほど「領土問題の解決」に当たっての自らの「無能」ぶりがますます露呈してしまうわけである。

 こうした中で、漁船衝突事件の発生以来、最初は「反日」に燃え上がった国内世論は徐々に中国政府の「無能」と「弱腰」に対する批判に転じていき、中国政府の立場がより一層苦しいものとなった。

 このような状況下で、国内世論からの「弱腰批判」をかわして「強い政府」を演じてみせるためにも、日本との「領土問題」に実質上の決着をつけられない自らの「無能」ぶりを内外の目から覆い隠すためにも、中国政府は結局、冒頭から記したような「八つ当たりの外交戦」を展開して自らの立場を「強くしてみせる」以外に方法がなかった。

日本は余裕を持って静観すればよかった

 そうした意味で、本来なら、日本は、中国政府の展開する「対日報復外交戦」にまったく動じることなく、ただ余裕を持って静観すればよかったのだ。だが、日本はこの程度の度胸も意気地も持ち合わせていなかった。9月24日、逮捕・拘置中の中国人船長が突如、処分保留で釈放されることになった。那覇地検が処分保留とした理由について「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」と述べたことから分かるように、それは決して国内法に基づいた司法判断ではなく、むしろ中国に対する「政治的配慮」の結果であったことが明らかである。

 中国の温家宝首相が9月21日に激しい口調で日本の対応を批判し船長の釈放を強く求め、「さらなる対抗措置をとる」との脅しをかけたその直後に行われた那覇地検の決定であるから、それが中国政府からの圧力に屈したことの結果であることは明らかだ。

 菅直人首相は24日の午前、訪問先のニューヨークでこの事件に関して「今はいろんな人がいろんな努力をしている。もう少し、それを見守る」と述べたことも看過できない。当日の午後に那覇地検が釈放の決定を行ったのだから、それはどう考えても、菅首相の言う「いろんな人が努力している」ことの結果でしかない。そうだとすれば、結局日本政府は那覇地検に何らかの圧力をかけて「処分保留釈放」の決定を促したことになるのである。

 つまり日本政府は、法治国家としての誇りも原則も捨て、日本の領土保全を蔑ろにしてまで、中国に跪いて降参したわけである。「2010年9月24日」という日は、日本にとっての戦後最悪の「国家屈辱記念日」となった。そして、日本の全面的敗北を受けて、9月末からは、中国側の対日姿勢に「軟化」の兆しが見えてきた。日本に突きつけた当初の「謝罪と賠償」の要求は影を潜め、中国外務省報道局長の口から「日中関係重視」の発言が出た。そして9月30日、中国当局によって拘束されたフジタ社員4人のうちの3人が解放された。


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