補講 北朝鮮入門

2017年10月12日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

[執筆記事]
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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

強硬路線と対話の両にらみか

 今年9月3日に6回目の核実験を強行した時に『労働新聞』で報じられた政治局常務委員会の様子からも、戦争シナリオ以外の想定を読み取れる。

 昨年の党大会で金正恩氏と金永南氏、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長、朴奉珠(パク・ポンジュ)内閣総理、崔龍海氏の5人が委員となった常務委員会は最高指導機関だが、会議体として実質的に機能しているかは疑問が残る。

 常務委員会が実際に開催されたと報道されたのは、6回目の核実験の時が初めてである。この時は常務委員会が「国際政治情勢と朝鮮半島に生じた軍事的緊張状態を分析評価」したうえで、水爆実験の決定がなされ、それに基づいて金正恩委員長が命令書に署名したと報じられた。そうした手順を踏んだことを誇示するように、常務委員5人が円卓を囲んでいる写真が『労働新聞』1面を飾った。しかし、ヘビースモーカーである金正恩氏の前に置かれているべき灰皿が、この時の写真では見当たらない。それは、円卓での「会議」が写真撮影用に過ぎなかったことをうかがわせるのである。

 一方で『労働新聞』1面の記事が最後に触れた点には注目すべきだ。記事は、「米国と敵対勢力の悪辣な反共和国制裁策動を牽制し、(昨年の)党第7回大会で提示した部門別闘争課題を成功裏に執行させるための具体的な方法と対策を討議した」と加えた。つまり、核実験以外の問題について、たとえば経済や外交などについても討議したとアピールしたのである。経済担当の朴奉珠氏や外交担当の金永南氏が出席した点からも、軍事一色の会議だったわけではないと強調したかった可能性を読み取れる。

 その意味では、重要な前例を忘れてはならない。2013年2月12日に北朝鮮は3回目の核実験を強行した。さらに3月5日には朝鮮戦争休戦協定の白紙化を宣言したため、緊張が一気に高まった。ところが、同月30日に開かれた「朝鮮労働党中央委員会2013年3月全員会議」で、金正恩第一書記(当時)は「経済建設と核武力建設の並進路線」を提示した。日米韓では核開発の意欲を強調したものだという受け止めが強かったこともあり、当時は韓国に対する「挑発行動」が懸念された。だが実際には北朝鮮は「経済建設」を強調しはじめ、いつの間にか対話モードに局面を切り替えてしまった。

 金正恩政権の直近の動きからは、米国に対する「対抗措置」を計画しながらも、一方で外交交渉に持ち込む可能性を追い求めようとする姿勢の片りんを見てとれる。核・ミサイル開発の進展を受けて、北朝鮮としては強硬路線と対話路線の両方をにらんだ態勢に入ったのかもしれない。ただし、金正恩氏が考えるのは「北朝鮮の望む形での対話」であり、少なくとも現時点ではトランプ米政権とうまくかみあう可能性が高いとは言えない。
 

●2017年10月8日時点の公式序列
党中央委員会第7期第2回全員会議(2017年10月7日)における登用人事と金正日総書記推戴20周年中央慶祝大会(2017年10月8日)での参加者発表順等をもとにした党の公式序列(一部推定。※は今回の新人事、#は慶祝大会欠席者。欠席者のうち金己南や崔泰福らは前日の錦繍山太陽宮殿への参拝に参列していることから、全員会議を機に円満引退の可能性がある。)
党中央委員会政治局常務委員〔5名〕
金正恩(キム・ジョンウン)#党委員長・国務委員長・朝鮮人民軍最高司令官
金永南(キム・ヨンナム)  最高人民会議常任委員会委員長
崔龍海(チェ・リョンヘ)  党中央委副委員長・党中央委部長・国務委副委員長
朴奉珠(パク・ポンジュ)  国務委副委員長・内閣総理
黄炳瑞(ファン・ビョンソ) 国務委副委員長・朝鮮人民軍総政治局長・次帥
党政治局委員〔13名程度〕
パク・クァンホ※      党中央委部長〔今回初報道と思われる人物〕
金己男(キム・ギナム)#  党中央委副委員長・党宣伝扇動部長・国務委員
崔泰福(チェ・テボク)#  党中央委副委員長・最高人民会議議長
朴映式(パク・ヨンシク)  人民武力相・国務委員
楊亨燮(ヤン・ヒョンソプ) 最高人民会議常任委副委員長
李洙庸(リ・スヨン)    党中央委副委員長・最高人民会議外交委員長・国務委員
金平海(キム・ピョンへ)  党中央委副委員長・党幹部部長
太鍾洙(テ・ジョンス)※  党中央委部長・前咸鏡南道党委員会責任書記
呉寿容(オ・スヨン)    党中央委副委員長・最高人民会議予算委員長
安正洙(アン・ジョンス)※ 党中央委部長
朴泰成(パク・テソン)※  前党平安南道委員長
郭範基(クァク・ボムギ)# 党中央委副委員長
金英哲(キム・ヨンチョル) 党中央委副委員長・党中央委部長・国務委員・陸軍大将
李容浩(リ・ヨンホ)※   外相・国務委員
李明秀(リ・ミョンス)#  朝鮮人民軍総参謀長・次帥
崔富日(チェ・ブイル)   人民保安相・最高人民会議法制委員長・国務委員
盧斗哲(ロ・ドゥチョル)  国家計画委員長・内閣副総理
党政治局候補委員〔10名程度〕
崔 輝(チェ・フィ)※   党中央委第1副部長
朴泰徳(パク・テドク)※  党黄海南道委員長・最高人民会議法制委員
金与正(キム・ヨジョン)※#党中央委副部長
金秀吉(キム・スギル)#  党平壌市委員長
金能五(キム・ヌンオ)#  党平安北道委員長
任哲雄(イム・チョルン)  内閣副総理
趙延俊(チョ・ヨンジュン) 党中央委検閲委員長・党組織指導部第1副部長
李炳鉄(リ・ビョンチョル)#党軍需工業部第1副部長・陸軍大将
奴光哲(ノ・グァンチョル) 陸軍上将
鄭敬沢(チョン・ギョンテク)〔今回初報道の人物〕
李永吉(リ・ヨンギル)#  軍総参謀部第1副総参謀長兼作戦総局長・陸軍大将

  
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