WEDGE REPORT

2017年10月18日

»著者プロフィール
閉じる

勝俣範之 (かつまた・のりゆき)

日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授

1988年富山医科薬科大学医学部卒業。92年より国立がん研究センター中央病院内科レジデントとなり、97年同院内科スタッフ、同院乳腺科・腫瘍内科外来医長を経て、2011年より現職。腫瘍内科を立ち上げ今日に至る。著書に『「抗がん剤は効かない」の罪』(毎日新聞社)など。

 増殖スピードが極めて速いがんの代表は、血液腫瘍に代表される白血病などであり、増殖スピードが極めて遅いがんの代表は、甲状腺がんや前立腺がんなどである。検診で緊急の治療を要さないがんが見つかり、過剰に治療されてしまうこともある。日本においても検診にはメリット、デメリットがあることを理解して推進していくことが必要である。

最善の治療「標準治療」とは

 がん検診に限界があるため、「標準治療」を推進し、どこに住んでいても同じレベルでそれを受けられるように均てん化することが、がん対策のもう1つの要となる。標準治療とは、現在の医学で最善の治療である。これは、英語の〝Standard therapy〟を日本語に訳したものである。英語のStandardには、〝最善の〟という意味が含まれているが、日本語で、〝標準治療〟と言われると、〝並の治療〟の意味になってしまい、患者に、もっと良い治療があるのではないか? とよく誤解される。

 日本において標準治療はがんに限らず診療ガイドラインに定められている。ガイドラインは、単に個人的な意見で決められたというレベルのものではなく、世界中のあらゆる医学文献をレビューし、複数の専門家(ときには、数十名にもなる)が系統的な手法をもって厳密に作成し、第三者による評価を経て、詳細に決められたものである。現在、日本語のがんの診療ガイドラインだけでも109が作成されている。

 厚生労働省が、全国どこでも質の高いがん医療を受けられるよう指定している「がん診療連携拠点病院」の指定要件にも「各学会の診療ガイドラインに準ずる標準的治療などがん患者の状態に応じた適切な治療を提供すること」とある。

(注)調査に参加したがん診療連携拠点病院及び地域がん診療病院における2012年の標準治療実施割合の抜粋 (出所)厚生労働省「がん対策推進基本計画中間評価報告書」を基にウェッジ作成 写真を拡大

 しかし、厚労省の「がん対策推進基本計画中間報告書」(15年)によると、がん診療連携拠点病院における標準治療の実施率には、大きな施設間格差がある。やや専門的だが、大腸がん手術後の化学療法49・6%、乳房切除後高リスク症例への放射線治療33・1%、肺がん手術後の化学療法45%など、9項目の標準治療のうち実施率は最低33・1%から最大90・3%まで報告されており、低い実施率にとどまる標準的治療法が存在している。(右図)

 また、05年と少し古いが淀川キリスト教病院腫瘍内科副部長の金容壱氏ほかの研究では、国立がんセンター東病院に紹介された患者のうち、乳がん治療のガイドラインに従っていたのは半数以下であったという報告もある。ガイドラインは合併症や患者個人の希望などを理由に実施されないこともあるが、それでも実施率が50%をきるような状態にはかなり問題がある。

 国も推奨しているガイドラインの実施率が低いことはあまり知られていない。その原因は、がん薬物療法(抗がん剤など)の著しい高度化にある。がん薬物療法を専門とする腫瘍内科医(がん薬物療法専門医)の数は、外科の専門医が全国に2万2851人いるのに対し、1192人しかいない。結果、日本の臨床現場では抗がん剤などを外科医などが処方することになるが、最新の薬の副作用まですべてをカバーするのは難しい。腫瘍内科医を増やす取り組みも必要となる。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る