この熱き人々

2017年11月20日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「Gをかけたほうが速く曲がれるので、コントロールしないと簡単にオーバーGしてしまうんです。10Gまで達するのにわずか0・4秒。体が反応するのに0・2秒くらいかかるので、頭で考えていると追いつかない。筋肉で反応しないと間に合わないわけです」

 余裕を持って旋回すればGは楽にコントロールできるが、それではタイムがかかって勝てない。予選でタイムが出なかった選手が、勝つためにイチかバチかオーバーGの失格覚悟で攻め込むこともあるという。聞いているだけで怖くなる。

 「まあ、確かに怖いといえば怖いですけどね。恐怖心や緊張感は持っていていいと思います。人間の本能のブレーキですから。技術的にはほとんど差のない60秒を切る勝負なので、コンディションとメンタルの勝負になりますよね。集中力を高めるのに、集中した状態はどういう状態なのかをつかんで、緊張感を自分でコントロールしながら全能力をレースに向かってフォーカスさせていく。同時に年間を通じた長い期間、どうやってモチベーションを維持していくか、心身を健康な状態にキープしていくかなど、総合的にすべてを強く保つのが課題ですね」

 

 思わず手に汗を握るような話も、息苦しくなるような過酷な状況も、室屋は表情を変えずに淡々と語る。あくまでクール。レースに臨む「チーム・室屋」は、メカニックやコーディネーターに加えて、データを分析して飛行のラインを決める戦略担当、エンジニアなど4人以上で構成される。常にエンジンの空冷システムや機体にも改良が加えられ、パイロットは進化し続ける性能を体になじませて勝負に向かうことになる。

操縦技術世界一を目指して

 航空文化の全く違う欧米のライバルたちは、実家が飛行場を所有していたり、幼い頃から飛行機になじんでいる選手が多い。しかし日本は、欧米のように小型機が生活のシーンに当たり前に登場し、自動車教習所のような感覚で免許が取得できる環境にはない。父親は普通のサラリーマンだったという室屋が、エアレース・パイロットの道を突き進むことの環境的かつ金銭的な困難は、容易に想像できる。それでもその夢に向かい続けるには、どれだけの強い意志が必要だったのだろうか。

関連記事

新着記事

»もっと見る