2024年4月21日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月2日

 この論説は、ワシントンで拡大している封じ込め・抑止論に6つの観点から反駁するものです。6つのポイントとは、(1)金正恩の行動様式は未だ良く分からない、(2)金正恩との抑止が安定的と言い切ることはできない、(3)大幅な国防支出増額が必要になるが可能か、(4)日米韓は防御から攻撃に姿勢を変えることができるか、(5)日韓の核化に向かうことになるのではないか、(6)北の国民を見捨てることになる、ということです。かつての戦略的忍耐の政策を進めてきた人々が今や封じ込め・抑止論者になっているとして、これらの論者に対する不信感を隠しません。しかし、党派色の強い議論は良いことではありません。

 だた、抑止論は「残る唯一のオプション」かもしれないと述べているところを見ると、抑止論を全否定している訳でもないようです。

 しかし、筆者は、抑止論よりは「統一政策」がベターだと主張します。すなわち、韓国の下に新たな「コリア」を作る、そのために大物を統一担当責任者に任命し、国際的支援を集め、北の国民生活を助け、人権問題などにも対処する、と言います。この政策の利点はアジア(日韓)での核拡散をしないで済むことだと言っています。しかし、如何にして韓国主導の下に新たなコリアを作るのかは明らかにしていません。レジーム・チェンジを念頭に置いているのかもしれません。金正恩の内部崩壊を謀ることを想定しているのであれば、それには時間がかかるばかりか結末は不確実です。更に、統一について鍵を握るのは中国であり、「韓国の下」での統一を中国が簡単に呑むとは思えません。また統一されたコリアがすんなり非核のコリアになるのかどうかも定かではありません。今や時間が重要な要素ですが、統一政策は現状維持の政策にもなりかねません。

 筆者は「封じ込め・抑止政策は冷戦時代の政策だ」と言いますが、それで何が悪いのかと思います。むしろ、対北抑止政策の最大の問題は、それが安定的かどうか、また北の核保有を暫定的にあるいは結果として長期に認めることになるかもしれない点にあります。北の核は、破壊されることを避けるためには早く撃たなければならないため、先制使用になり易いでしょう。北の核保有量が増える等により第二迎撃能力の保有を認めれば抑止はより安定するかもしれませんが、それは、北がより本格的な核保有国になっていることを意味します。

 今の時点で大事ことは、圧力や対話、軍事力の強化などあらゆる手段を駆使して北をギリギリの事態に追い込んで問題解決の模索に向かわせる、そのために手段を尽くすことではないでしょうか。これから数カ月、制裁が効いてくる時期が非常に重要です。

  
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