WEDGE REPORT

2017年11月1日

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 津ケ谷さんは、「この地域の農家ですでに後継者が決まっているところはほとんどない。自分たちのこれまでの経験を若手に伝えたいが、それにはかなり長い時間が必要で、一度に伝えられる人数にも限りがある。経験をデータ化できるのはとても便利だ」と学習プログラムの開発に期待を寄せる。県では、収集した画像データとインタビュー結果を基に問題集を作成し、昨年から農家や農業を経験したことのない人に配布し、学習効果を測る実験を行っている。「年間を通して行うさまざまな作業をいつでも何度でも学習できるため、効率的に知識が習得できる」(静岡県農芸振興課の武藤浩志氏)

 こうして、各地で、新規農業従事者の参入障壁を下げるべく、スマート化を進める動きが出てきているが、「まだ実験として進めているところが多く、顕著な効果が出てきている段階まではきていない」(日本総研シニアスペシャリストの三輪泰史氏)。今後、さらにスマート化を普及させる上では、コストメリットやデータ収集などが課題になるだろう。

普及し始めたスマート化を待ち受ける課題

 先述のみどりクラウドは、バージョンにもよるが、初期費用は10万円、月額費用は2000円ほどだ。一度ハウスの温度調整に失敗し、何千万円もの損害を被るリスクを考えれば、導入する意味はありそうだが、「導入しない理由に価格を挙げる農家は多い」(セラクの新谷氏)という。JAフルーツ山梨の反田氏は、同システムを利用してくれる協力農家を探す際に、「わざわざ導入しなくても、自分で見回りをすればいいし、温度調節も経験で分かっているから必要ない」と断られることも多かったという。

 農業のスマート化に関しては、今回のセンサー以外にも、GPS機能が付いた自動操縦コンバインなど、はるかに高額な機器もあり、こうした機器ではなおさら導入のハードルは高いだろう。こうした現状について三輪氏は、「今は農家や農業法人が単体でスマート機器を取り入れている段階であり、確かに導入コストは障壁となっている。ただ、もう少し普及が進めば、スマート機器を近隣でシェアするなど、地域としてスマート化するフェーズとなり、こうしたコストの問題は徐々に解決していくのではないか」とコスト障壁の緩和を期待する。

 また、データの収集に関しては、そもそもどれくらいの農家が協力をしてくれるのかという問題がある。農業ジャーナリストの土門剛氏は、「最適な水分量や湿度、温度調節のタイミングなど、長い月日をかけてやっとたどりついた成果はいわば財産であり、それを提供することを拒む農家は多いのではないか」と疑問を呈す。多くのデータが集まらなければ、効率的な栽培方法を検証することも難しい。ノウハウ提供の見返りをどうするのかなど、関係者間のギブアンドテイクの仕組みを整える必要がある。

 まだまだ解決すべき課題は多いが、目前には大量離農時代が迫っている。生産性向上や新規参入を促すためには、農業のスマート化は避けては通れない道だろう。

現在発売中のWedge11月号では、以下の特集を組んでいます。こちらの書店や駅売店にてお買い求めいただけます。
■「大量離農時代」の切り札 スマート農業(山口亮子、窪田新之助、Wedge編集部)
第1章 稲作の未来 衝撃のコスト削減、品質向上 日本のコメはここまで強くなれる
第2章 日本型「付加価値農業」の誕生 IoTが可能にした「フランチャイズ型」農業
REPORTAGE 離農をスマート化のチャンスに変えた農業大国・米国
第3章 農業への参入障壁を下げるスマート化 栽培工程のデータ化で進む「効率化」と「技術継承」

  
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◆Wedge2017年11月号より

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