WEDGE REPORT

2017年10月27日

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田中淳夫 (たなか・あつお)

ジャーナリスト

静岡大学農学部卒業。出版社、新聞社を経て、主に林業を中心に取材・執筆。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)など多数。

農地を狙う個体を狙い撃ち

 効果的な獣害対策とはいかなるものだろうか。野生動物の生態から迫るのが、国立研究開発法人農研機構西日本農業研究センターの江口祐輔さんである。ところが初っぱなに意外なことを言った。

 「獣害とは、何より農作物被害です。被害額を抑えるべきなのに、生息数を減らすことばかりに眼を向けたのが間違いの元です」

 農地を荒らす個体はある程度決まっているそうだ。農作物という「美味しい餌」を覚えた個体は繰り返しやってくる。この加害個体への対策を考えねばならない。

 まずは動物の生態を知るべきという。江口さんは、実際にイノシシを飼育して食性や習性を調べた。すると好物とされるミミズよりも農作物の方を好んだ。そのほか柵のくぐり方、罠(わな)の避け方などもわかってきた。

 「よく山に餌がないから野生動物は里に下りると言われますが、山に餌があっても美味しい農作物を知ると農地を狙います。とくに気をつけるべきは農業廃棄物です」

 農家は、収入となる農作物を食べられると被害者意識を持つが、収穫物以外に対しては鷹揚(おうよう)だ。農地には、間引いたり出来の悪かった作物が捨てられ、人家近くにも実を付けた柿や栗、柑橘類などがある。また刈り取り後の田んぼに生えるヒコバエもよい餌になる。これらを食べる獣を追わないと味を覚え、次は農作物そのものを狙うという。

 まず農地に引きつけない「予防」、次に柵による「防護」、そして加害個体の「駆除」と三本立てで臨まないと効果が出ない。

被害ゼロ集落を増やすことを目指す江口さん
(写真・ATSUO TANAKA)

 江口さんは、島根県美郷町と組んで指導して効果を挙げている。大分県でもこの方策を6年前から取り入れて「被害ゼロ集落」を目指し、すでに44の集落を成功に導いた。

 具体的には、鳥獣害アドバイザーを養成して集落点検の実施、農林業者自らが狩猟免許を取る講習や罠の仕掛け方などの指導、防護柵も効果的な高さや構造で設置して一斉点検日を設ける、などである。被害発生の約5割は防護柵の管理不足だったそうだ。

 ちなみに美郷町では、捕獲イノシシの資源化も進めている。組織的に捕獲し安定供給体制を作り上げ、生きたまま処理場に輸送し質のよいジビエとする。また皮革利用も始めた。獣害対策を地域おこしに繋げたのだ。

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