BBC News

2017年10月27日

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ドナルド・トランプ米大統領は26日、鎮痛剤の乱用による薬物中毒の拡大を米国の「国家的不名誉」と呼び、公衆衛生の緊急事態だと宣言した。米国では、「オピオイド」と呼ばれる鎮痛剤の中毒で、毎日140人が死亡しているという。

大統領はホワイトハウスで報道陣を前に、「今では1日に薬物の過剰摂取で死ぬ人数の方が、銃による殺人や自動車事故の被害者の合計よりも多い」と指摘。薬物の過剰摂取による中毒死のほとんどは、「ヘロインなど処方オピオイド系鎮痛剤の中毒が、一気に急増している」ことが原因だと述べた。

「オピオイド系の薬の1人あたり使用量は、アメリカが世界の他のどの国よりも圧倒的に多い」とトランプ氏は補足した。

大統領は、オピオイド系鎮痛剤中毒の拡大を国家的な公衆衛生の緊急事態だと宣言するよう、保健長官代行に指示した。ホワイトハウス幹部によると、オピオイド系鎮痛剤の乱用死を減らすよう、連邦政府内の全部局に対応を命令したという。

米政府の薬物中毒・オピオイド危機対策委員会によると、オピオイド系鎮痛剤が関係する米国内の死亡件数は1999年以来、4倍増。2015年には3万3000人が死亡したという。

米疾病対策センターは2011年の時点で、オピオイド中毒が国内に「蔓延(まんえん)」していると認定した。オピオイドは鎮痛剤のほか、違法麻薬の一部にも含まれる。

トランプ氏は大統領選の最中から、オピオイド中毒危機を頻繁に取り上げ、被害の多い農村部などを精力的に遊説していた。

トランプ氏はその上で今年8月の時点で、鎮痛剤中毒について国家非常事態を宣言すると表明。ただし、継続的問題を国家非常事態と宣言するのは不適切だという政府内意見もあり、公衆衛生の緊急事態宣言に留めた。

国家非常事態宣言の場合は各州政府に対策費として新たに連邦予算を提供するが、公衆衛生の緊急事態に留めたことで、すでに各州に提供されている連邦支出金の中から対策費をまかなうことになる。また、連邦支出金の使い方について各州の裁量が拡大する。

ただし、実際の予算不足も指摘されている。ホワイトハウスは、対策事業を政府の公衆衛生危機基金を通じて進める方針だが、この基金の現行予算はわずか5万7000ドル(約640万円)に過ぎない。このため政権幹部によると、政府は連邦議会と協力して追加予算措置を求めていく方針。

連邦政府が州政府と共に進める鎮痛剤中毒対策には、(1) 患者が医師の直接診断を受けなくても処方箋を入手できる「テレ診療」の機会拡大、(2) 薬物中毒が原因で就労困難な患者への助成拡大、(3) 保健福祉省は特に農村部において薬物中毒危機対策のスタッフ増員、(4) 州政府の裁量で連邦支出金をエイズ対策からオピオイド対策に回せるようにする――などの施策が含まれる。

トランプ大統領が鎮痛剤中毒を国家的な問題として大きく取り上げたことで、国民的な意識向上につながると評価する声がある一方で、対策は不十分だという批判もある。

地方医療従事者団体の代表、マイケル・フレイザー氏は政治ニュースサイト「ポリティコ」に対して、「オピオイド危機の拡大が各州政府の予算を圧迫しているだけに、資金不足は心配だ。新しい予算措置がなければ、次は連邦政府が行動する番だと、大勢に気づいてもらいたい」と話した。

民主党のバーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)はツイッターで、「オピオイド危機が国家的な非常事態だと(大統領が宣言したのは)正しい」ことだが、その内容は「空約束に過ぎない」と批判した。

「オピオイド中毒の治療に、何百万人もの人がメディケイド(低所得者用医療保険)に依存している。メディケイド予算を1兆ドル削減するというのがトランプの解決策だ。とんでもない話だ」と議員はツイートした

米保健福祉長官のポジションは現在、空席となっている。トム・プライス前長官は先月、公務に高価なチャーター便を繰り返し使っていたことが判明し、辞任した。


<解説> まずは第一歩 ラジニ・バイディヤナザン、BBCニュース(ワシントン)

鎮痛剤やヘロインの依存症が、農村か都市部かを問わず、米国各地のコミュニティーを蝕んでいる。

昨年の大統領取材で国中を取材して回るなか、大勢の被害者に出会った。たとえばアーカンソー州の美容師は、腰痛のためにと処方された鎮痛剤のせいで元夫を亡くしていた。あるいはニューハンプシャー州で知り合った家族は、過剰摂取で10代の娘を失っていた。さらには、自分が患者に処方する薬に医師の側が依存してしまう話も繰り返し聞かされた。

トランプ大統領は、薬物中毒を国家非常事態と宣言する方針を示していたが、今回の公衆衛生緊急事態宣言はむしろ短期的な対策で、予算措置は大きくない。

回復中の依存症患者や支援団体に話を聞くと、大きな変化をもたらすには、24時間体制のリハビリと治療にもっと投資する必要があると言われる。

確かに今日の宣言は、前向きな一歩として歓迎されるだろうが、この危機に取り組むための予算を確保し対策を実行するには連邦議会の行動が必要だ。今後は大勢の目が、議会に注がれることになる。


(英語記事 Trump: Opioid 'national shame' a public health emergency

提供元:http://www.bbc.com/japanese/41772348

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