WEDGE REPORT

2017年10月28日

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福田 円 (ふくだ・まどか)

法政大学法学部教授

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。主な著書に、『現代中国外交の六十年』(共著、慶應義塾大学出版会、2011年)、『日中関係史 1972-2012 Ⅰ政治』(共著、東京大学出版会、2012年)、『中国外交と台湾 「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)など。

「アメとムチ」の使い分けはますます激しくなる

 つまり、今大会の政治報告において、習近平は過去5年間の対台湾政策を肯定し、一方では「台湾独立」に対する牽制をさらに強めつつ、他方では蔡英文政権との対話に踏み切るための政治的決断を行う余地を残したと言えよう。このことを踏まえると、二期目を迎える習近平政権の対台湾政策は、「強硬な部分はさらに強硬に、柔軟な部分はさらに柔軟に」という胡錦濤政権期以来の方針を、さらに機動的に運用していくことになるだろう。また、今大会で党内における権力基盤を固めたことによって、習近平が対台湾政策において選択できる政策の幅はより広がり、決定の自由度も増すだろう。

 さらに、これから来年3月の全人代に向けて、習近平は対台湾政策を立案・執行する布陣を強化する見通しがあるともいわれる。その第一報として、劉結一前国連大使が党大会前に国務院台湾事務弁公室(国台弁)の筆頭副主席に任じられ、党大会で中央委員入りしたことから、劉氏を国台弁主任に据える可能性が報じられた。劉氏は大国間関係においても強硬な主張を貫くタフな姿勢で知られており、国際社会における台湾の活動空間に対する圧力強化を想定した人事なのではないかとの懸念もある。

 中国は硬軟両様の幅広い手段を駆使して、台湾の独立を牽制しつつ、台湾との経済的、社会的、文化的な融合をさらに推し進めようとするだろう。習近平の政治報告においても、「両岸同胞は運命を共にする骨肉の兄弟」、「『血は水よりも濃い』という家族」などの表現が見られる。「兄弟」や「家族」は、武力によって制する対象ではなく、「中華民族の偉大なる復興という美しい未来をともにつくる」べき対象なのである。習近平には1990年代に福建省で約10年もキャリアを積んだ時期があり、台湾との交流には自信を持っているといわれる。たとえ蔡英文政権との対話はなくとも、中国大陸在住の台湾人に国民と同様の待遇を与え、福祉サービスを受けられるようにするなどの措置を進めていく方針が、政治報告から読み取れる。

 また、前回の政治報告が掲げた、中台間の「軍事的な相互信頼メカニズム」の構築や「平和協定」の締結*に、今回の政治報告は言及しなかった。ここから、習近平政権は政治的な交渉や制度化よりも、当面は実質的な経済・文化の融合や台湾の人々の心への働きかけを優先するつもりであると見られる。

*「軍事的な相互信頼メカニズム」の構築や「平和協定」の締結は、台湾との経済・文化交流を政治的に制度化し、中台融合を不可逆的な流れにしようとする試みであった。しかし、馬英九政権期においてその条件は整わず、蔡英文政権とは交渉の端緒すら開けていない。

今後の中台関係で注目すべきポイント

 今後の中台関係はどのような方向に向かうのだろうか。まずは、この党大会を観察して、蔡英文政権がどのようなタイミングで、どのような反応を示すのかが問われる。そのなかには公開の態度表明もあるだろうし、水面下での接触を模索する可能性もあるだろう。さしあたり、11月初旬のAPEC首脳会議において、習近平と台湾の代表である宋楚瑜親民党主席がどのようなかたちで接触するのかが注目される。

 また、このAPEC首脳会議に先立って、トランプ米大統領の訪中が予定されており、ここでの台湾問題の扱いも中台関係に影響を与え得る。こうした台湾や国際社会の動向を睨みつつ、年明けに開催される中国共産党の対台湾工作会議において、より具体的な習近平の対台湾政策が示されるのであろう。

福田 円(法政大学法学部教授)
1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。主な著書に、『現代中国外交の六十年』(共著、慶應義塾大学出版会、2011年)、『日中関係史 1972-2012 Ⅰ政治』(共著、東京大学出版会、2012年)、『中国外交と台湾 「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)など。

  
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