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2010年10月20日

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 その足元を見透かすような中国政府による対日旅行自粛である。日本の流通、観光業界が蒼ざめたのはいうまでもあるまい。かくして、生産、販売、原材料・部品調達、駐在邦人の身柄、人的交流など、様々なレベルで日本企業と日本経済は、戦後初めてといってよい「存亡の危機」に直面したのだ。

 日本の対中直接投資は05年から09年の5年間で3兆5000億円にのぼるが、それが焦げ付くだけで済み、国そのものが呑みこまれないならまだまし、と覚悟を決めるほかない。ともあれ、政府・日銀が頼りにしていた新興国需要に牽引された景気回復というシナリオは、冷水を浴びせられたというべきだろう。何故なら、新興国需要とは中国需要の官庁的な言い換えなのだから。

問われる日銀の役割

 企業のそうしたリスク意識は、9月に実施した日銀企業短期経済観測調査(日銀短観)に表れている。大企業・製造業の業況判断指数をみると、プラス8と前回6月調査時点より7ポイント改善しているものの、経営者や市場参加者が警戒しているのは12月の見通しだ。マイナス1と急降下する見込みなのだ。

 典型的なのは自動車だろう。9月調査では32のプラスだった業況判断指数が、12月の見通しはマイナス6と、実に38ポイントもの悪化となる。秋の夕陽の釣瓶落としではないが、裾野が広い主力産業である自動車がこれだけ落ち込めば、産業界全体に響かないはずはない。しかも、急速な円高に企業の対応はとても追いついていない。

 同じく日銀短観に示された想定為替レートをみれば、ハッキリする。今年度下期は6月時点で1ドル=90円16銭と見込んでいたものが、9月時点では89円44銭とほとんど円高方向に修正されていない。9月30日時点の円相場は1ドル=83円台だから、円高の長期化は為替予約(先物の円買い)の期限が到来する下期にかけて、日本企業の業績にボディーブローのように効いてくる。

 しかも年末にかけて、一段と円高が進むリスクが目白押しだ。ひとつは11月2~3日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が一層の金融緩和に踏み切る公算が大きいこと。米金利の低下は放っておけば円高・ドル安の要因となる。もうひとつは11月2日に投票の米中間選挙。与党民主党の大敗が予想されるなか、為替市場には一段の円高要因となって跳ね返る可能性が大きい。

 こうしてみると、日本経済は踊り場どころか、二番底のリスクを抱えていることが理解できよう。政府は総額4.8兆円規模の補正予算を組む方針だ。病院や学校などの耐震性の向上といった、差し迫った必要のある公共事業を含め、賢明な財政支出を行うのは、決して悪い話ではない。要は、子ども手当のような効果の疑わしい支出を、効果の高い分野へと切り替えていく政治的な意思なのである。

 もうひとつは、金融政策を思い切って活用することだ。8月に円が急騰した局面を含め、日銀の対応は「遅すぎて小出し」に過ぎた。米国に比べて日本のマネーの伸びが少ない。ということは、ドルに比べて円の供給が少ないという評価になり、通貨の需給面から円高が進みやすくなる。

 日銀は10月5日、追加の金融緩和策を発表した。2006年7月以来約4年3カ月ぶりのゼロ金利復活、5兆円規模の資産買い取りがその主な柱である。

 今回、日銀が思い切ったのは、国債や社債のほかに、新たに上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(リート)も購入するとしたことだ。しかし「額が1桁違う」(日銀OB)という声も聞かれるように、購入対象だけでなく、買い取り金額自体を拡大する必要もあるのではないか。

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