ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年10月19日

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熱帯医学をご存知だろうか?
もともとは入植者を熱帯特有の感染症から守る目的で誕生した研究分野である。
長崎大学の嶋田雅曉教授は、アフリカのケニアに長期間滞在し
人々の生活様式から感染症予防のヒントを探り出そうとしている。

⇒前篇から読まれる方はこちらから。

高井ジロル(以下、●印) 住血吸虫症の予防には、水道を整備すれば万事解決ということですよね。

——ところが、そうはいきませんでした。人口約1500人の村の五カ所に共同水栓を作って使ってもらったんです。まず全員を薬で治療した後、どの家がどのくらい使ったかを記録した。やっぱり、水道を使った人は感染率が低く、水道を使わない人は感染率が高かった。だけど、水道から600㍍以上離れた人たちにはほとんど効果がなかった。水道まで水をとりにくるのが面倒なんです。川のほうが近い人はどうしても川で水を汲んでしまう。そして水道はすぐ壊れる。壊れると修理する金がないので修理しない。そういう結果になりました。

 水道を使ってくださいと言って全員が使うなんて甘いもんじゃない。実は、彼らにとっては、住血吸虫症は大した問題じゃないんです。住血吸虫は宿主を殺さないようにしないといけないので、住血吸虫症では別に人がすぐ死ぬわけじゃない。だから住民は別に重大な病気だとは思ってない。肝硬変になるといっても、それまでには長いスパンがありますし。

 ビルハルツ住血吸虫の主要な症状は血尿です。しかも、その血尿は、思春期になるとみな経験するものです。現地では、血尿が出ることが大人になったしるしだと思われていました。女性の初潮みたいな感覚です。こういう話があります。住血吸虫症がないところからきた男が、村の娘と結婚したいと娘の父親に願い出ました。すると親父は男に質問しました。「おまえは血尿が出たか?」。いいえと答えると、「そんなことでは娘はやれない」と言われたそうです。その男はまだ成熟していないと見なされたわけです。

●そんなところに乗り込んで「これは病気だ」と教えるというのは、もしかして大きなお世話なのかもしれません。

——でも、これは言っておかないといけないんですが、住血吸虫症にかかれば、他の病気にかかりやすくなるし、寿命は確実に短くなるんです。学校の成績も落ちてしまう。いい病気じゃないのは確かです。だけど、本人たちにとってみれば、いままで何の問題でもなかったのになんでわざわざそんなことを言い出すんだという感じだったでしょうね。

現地住民に住血吸虫の感染予防を訴える嶋田教授。

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