世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月6日

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 9月26日、マクロン仏大統領は、EU改造について、ソルボンヌ大学で100分もの演説を行いました。選挙戦の時からそうですが、マクロンの演説はとにかく長いです。ベルサイユ宮殿での、上下両院合同会議における就任後初の演説も、気が遠くなる程長かったです。

 この演説には「主権的で統合され民主的な欧州に向けて」という題名が付いています。「主権的な欧州」とマクロンは頻りに言いますが、その意味は判ったようで良く判りません。ともかく、マクロンはありとあらゆる種類の提案を提示しています。この論説は、マクロンが描くEUの将来像は「統合の深化したEUであるが、同時にグローバリゼーションの不公正な側面を含む外部の脅威から守られたEU」だと観察していますが、この観察は的確だと思います。マクロンはそういうビジョンを描くことでポピュリズムに流れ易い層との間に一定の折り合いをつける意図なのだと思います。

 この演説に欧州委員会のユンケル委員長は非常にヨーロッパ的な演説だとして感謝の意を表明しました。ユンケルの官房長はフランスの大統領と欧州委員会委員長の見解がこれ程までに一致することは滅多にないと表明しました。そのユンケルは、9月13日、欧州議会で恒例の施政方針演説を行いました。この時点では、マクロンが勝利して大統領に就任したのに続き、メルケルが選挙に勝って続投することが確実視されていました。演説のトーンは劇的に変わりました。昨年の演説では、EUは存立の危機にある、過去数十年、加盟国政府がこれ程までにポピュリズムの力で弱体化し、選挙での敗北のリスクで麻痺させられたことはない、とユンケルは述べました。今年は様変わりで、EUの統合深化に向けて進むべき絶好の機会が到来したとして野心的提案を並べて見せました。

 更に、9月29日には、エストニアのタリンでのEU首脳の非公式討議(ここでもマクロンが熱弁を振るったようです)を受けて、トゥスク大統領が今後の統合深化の推進の土台となるべき作業文書を取り纏めることとされました。そこには、例えば、年末までに防衛協力の強化で合意すること、ユーロ圏の改革のための首脳会議を12月に開催することが含まれるようです。要するに、未だ具体的成果は何もないですが、ムードは盛り上がっています。これはマクロン効果というべきものでしょう。

 エコノミスト誌9月30日号の社説は、ドイツの議会選挙でCDU・CSUが得票率と議席数を大きく減らし、メルケルがFDPと緑の党との困難な連立交渉を余儀なくされたことを捉えて、EUの変革を担う主役がメルケルからマクロンに入れ替わったと観察しています。マクロンがEU改造の主導権を握るには国内の改革で成果をあげることが欠かせないと見られていますが、マクロンが労働組合と交渉し、広範な労働市場改革を大した批判もなく、大規模で過激な街頭の抗議活動を招くこともなく、9月22日に法制化を達成したことに注目し、最初の試練は既に乗り越えたとも評価しています。マクロンを過小評価すべきでないというのがエコノミスト誌の結論ですが、そうだとしても、ドイツの連立政権がどのような姿になるにせよ、独仏枢軸を形成し得ないではEUを動かすことは出来ません。そのことはマクロン自身が承知のことで、それ故に、この論説が指摘するように、ユーロ圏の改革には大きく踏み込むことは避けたということでしょう。

 なお、意図的なことだと思いますが、マクロンの演説といい、ユンケルの演説といい、EUはBrexitには無関心を装うというか、歯牙にもかけない態度を貫いています。

  
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