世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月9日

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 9月25日のイラク北部のクルド自治区で行われた独立をめぐる住民投票は投票率72%で、独立賛成93%でした。

 クルド人住民を擁する周辺国家、イラク、トルコ、シリア、イランは、イラク北部のクルド自治区の独立は自国内のクルドの分離独立運動につながると猛反発しています。

 トルコがテロ組織としているPKK(クルド労働者党)掃討の目的でクルド自治区に軍事介入すること、イラクも分離独立阻止のために軍事介入すること、イランも国内のクルド独立運動を弾圧し、自分が統制しうるイラク内のシーア派民兵をクルド自治区に侵攻させることなど、クルド自治区の独立は中東情勢を戦乱の巷(ちまた)にさせかねません。

 この解説記事は、クルド自治区での独立に関する投票について、イランのクルド人やイラン政府の対応を、良くまとめてあり、参考になります。

 クルド人は3000万人くらいいるとされ、国家を持たない最大の民族と言われます。したがってクルド人が異民族の支配下にあり、独立国家を持てないのは気の毒で不条理であると思いますが、国際政治の現実を踏まえると、クルド自治区が今独立することは、それがもたらす混乱を考えれば、とても賛成できません。

 イラクのクルド自治区の指導者バルザニ議長は独立をすぐ宣言せず、イラク中央政府に自治権拡大、イラクでの連邦主義の確立のための交渉をしていくとしています。このバルザニの路線にイラクの中央政府も応えていくべきでしょう。空路、陸路の閉鎖など、クルド自治区への制裁や圧力よりも、対話をまず試みるのが好ましいです。

 米国は親クルドですが、クルドの独立に反対であり、今なおイラク政府に影響力があるのですから、バルザニとアバディ・イラク首相の仲介をする良い立場にあります。その立場を十分に生かしてもらうといいです。

 周辺国の内、イスラエルはイラクのクルド自治区での独立に関する住民投票を支持しています。ユダヤ人は長い間国家を持たなかったことから、クルドに同情しているのだとか、イラク・クルドが今やキルクークも実効支配しており、石油をそこから輸入できる経済的利益を重視しているとか、独立クルディスタンはイスラエルの友邦になりうるとか、その背景について諸説があります。このイスラエルの姿勢は欧米世論にも今後一定の影響を与えると思われます。

 尚、クルドがクルディスタンとして国を持ったことは歴史上2度あります。最初が第1次大戦後の連合国とオスマントルコとの講和条約セーブル条約(1920年)でクルドの自治が認められた時です。しかし、この条約はロ-ザンヌ条約(1923年)で無効化されました。2度目は第2次大戦後、1945年末、ソ連がクルディスタン人民共和国(マハバード共和国)をイラン北部に作った時です。これは1年後、イラン軍に制圧されました。

  
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