ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年10月19日

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 私が研究しているような病気をNTDsといいます。neglected tropical diseasesの略で、「無視された熱帯の病気」という意味ですね。もう私はほとんど人生が終わりに近づいていますので、残りの人生でなんとかNTDsを研究する若者を増やしたいと思っています。

 自分が院に入った頃は感染症に興味を持つ人がいなくなった時代でした。いまは、生命現象としての感染症の研究者は多いけど、現地で起こっていることを調べる若者はあまりいない時代です。つまり、そういう道を選ぶと研究者として生きていけなくなっているのが実情。

 でも、現場に入ることの意味は絶対にある。一つは、抽象的なところから入らず、具象から入ること。抽象から入ると、問題がすっきり整理されていて、その中での実験作業になる。それは枝葉がそぎとられたところで立つ柱。それとは違うことが現場ではできるはず。理屈でいえば、住血吸虫はこうやればいいというのはもう見えています。だけど、現場ではそうじゃない。実際にはなかなか制御できない。だからこそおもしろいはずなんです。

 もう一つは、現場で何か仕事するときは、いろんな方法論を総動員しないといけないこと。一方で顕微鏡を覗き、一方で数学的な計算をし、一方で人類学的な勉強をし、数理的なモデルを作り……。博学的なアプローチが現場では有効です。自分にはこの武器があるからこの武器だけで現場に入るというのはちょっと無理があります。人とつきあわないといけないし。

 たとえば、現地の住民の血を欲しがる研究者は多い。だけど、現場にいると、その血を採ったのがどういう人でどういう考えをしている人なのかが知りたくなる。血をみたい研究者は血液の中にある抗体とか物質とかビタミンとかが感染症についての何かを語ると思っている。だけど、生きている人間が何を考えているかどう生活をしているかもまた、感染症について何かを雄弁に語るはずなんです。

 これからは、一研究員として住血吸虫症の研究をやりながら、NTDsにつく若いひとを増やしたい。フィールド=現場でやる仕事はおもしろいよ、と伝えたい。

ケニア拠点は、日本人と現地スタッフが協力して運営している。
(2009年2月24日撮影)

●「踊る大捜査線」に「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ」という名台詞があります。先生は医学界の青島刑事ですね。

——現場でみるというのは、実はとても難しいこと。知識だけでなく、教養というものがないと、いろいろなものを見逃してしまいます。たとえば私は若い頃、血尿を一つの方向からしか見ていなかったせいで大事なことを見逃してしまったことがあります。でも、私の知らない見方をして、血尿について重要で新しい発見をした人がちゃんといました。その意味で、私はずっと失敗ばかりでなにも成功していない。私にはそういう失敗まで伝える役目がある、と肝に銘じているところです。

嶋田雅曉〔しまだ・まさあき〕
長崎大学熱帯医学研究所教授。ケニア中央医学研究所訪問研究員。ケニアプロジェクト拠点にて寄生虫学・疫学を研究している。

◆WEDGE2010年10月号より

 

 

 

 
 

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