世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月10日

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 蔡英文総統の双十節でのスピーチは、台湾の直面する内外情勢について述べたものであり、「ともに2017年をさらに良いものにしよう」という呼びかけがキーワードになっています。

 その中でも、とくに中台間の「両岸関係」に関連して次のような注目すべき発言を行っています。

 今年は「両岸交流」が始まってから30周年になる、との発言は、中台関係の交流の開始を蒋経国政権の末期(1987年)に台湾における戒厳令が解除され、それ以後、中台間の交流が始まったとの長期的視野に立って説明するものです。この30年間に総統としては、李登輝(国民党)、陳水扁(民進党)、馬英九(国民党)、蔡英文(民進党)と4代の政権交代が行われたとして、すべての総統が自由で民主的な選挙によって選ばれたことを強調しています。

 そして、「これら3人の総統たちは、それぞれやや異なった考え方をもっていたが、すべての人たちが台湾の未来への発展に対し、尽力した」と評価しています。

 このスピーチの中で、党派を異にする総統たちに特に言及したのは、台湾において3回にわたり、自由で民主的な選挙が行われ、それがすでに台湾において定着したことを強調したいからでしょう。ここには、蔡英文政権の台湾における歴史的位置づけが行われています。

 両岸関係については、蔡政権が成立してから、両岸関係を平和的に発展させるため、「我々は最大限の善意を示してきた」とし、「我々の善意は変わらず、コミットメントは不変であり、古い対抗の道に帰ることはないが、他方、いかなる圧力にも屈することはない」というのが、自分たちの一貫した両岸関係の原則である、と主張しています。

 そして、このような30年にわたる交流の蓄積の上に、中台双方の指導者が努力をし、「交流のための新しいモデル(両岸互動新模式)」を作って、両岸関係を平和で安定的な基盤の上に築くことを呼びかけるものとなっています。

 今日、中台間では、馬英九政権時代に見られたような両政府間の担当機関同士の接触・交流は行われておらず、台湾の担当機関は一種の「開店休業」のような様相を呈しています。

 蔡英文は、今回のスピーチの中で、昨年の就任式の際に述べたように「現状維持」という言葉には言及していません。しかし、このスピーチに述べられた両岸関係の在り方は、一口で言えば、「現状維持政策」に当たります。また、蔡は、新しく任命された行政院長(頼清徳)の「台湾はすでに主権が確立した独立国である」との発言に同意するような言い方もしていません。全体として、蔡英文の発言には中国を刺激・挑発しないように、との配慮がみられます。

 他方、蔡英文のスピーチは、一般論として台湾を防衛し、自由と民主主義を守るために、軍の戦闘、防衛能力を強化すること、サイバー攻撃に対処することを強く主張するものとなっています。そのために、「軍の改革に全面的に責任をもつ」として、ジェット戦闘機、潜水艦の建造を含む台湾の防衛産業を強化することを約束しているのです。ただし、ここでも中国を刺激することをさけるためでしょうが、「台湾関係法」による米国からの防御用武器の購入については触れていません。

 中国は、双十節の翌日、ただちに国務院台湾弁公室のスポークスマンの談話を出しました。それらは、両岸関係については、「一つの中国の原則」、「反台独」という二つの原則は全く変わらない、との新味のない強硬な内容のものでした。中国側が共産党大会終了後、今回の蔡英文のスピーチに対し、威嚇的反応を示す可能性も否定し得ず、注目されます。

  
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